今日の長門有希SS

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 飯を食って片づけが終わったら勉強再開……と言いたいところだったが、やはり食った直後にはだらけてしまって集中できないので、今日のところはお開きになった。
「本当は合宿もいいと思ってたけど、ちょっと今回は人数が多すぎるのよね」
 長門の部屋は一人で暮らすには広いのだが、さすがにこの人数では手狭だ。それに、寝具もそんなに無いだろう。
「あら、それは残念」
 喜緑さんが残念そうな顔をする。
 ……いや、あなたが参加した状態で合宿を行うとプチ惨劇が起こるような気がするので出来れば遠慮したい所存です。
「それじゃ、明日も朝から集合して勉強するわよ」
 ハルヒがそう宣言して解散。
 普段ならばどこか適当な場所で引き返して来て二人で過ごすところだが、今回ばかりはここに泊まるとまずい気がしたので、俺は大人しく家に帰る事にした。
「またな」
「……」
 去り際、ドアの外から声をかけると長門はわずかに首を縦に振った。


 家に帰った俺は、沸いていた風呂に速攻で入って湯につかってぐったりと全身の力を抜く。
 肉体的にはそれほど疲れていないが頭と気を使ったせいで妙に疲れていた。何度かウトウトと眠りそうになるのと気合いでなんとかして、体を洗って風呂から上がる。
 頭を乾かしながら、俺は居間に座ってぼーっとしていた。どうも勉強する気が起きない。まあ今日はもうこのまま寝てしまって、明日また頑張ればいいんじゃないかと駄目な考えが浮かんでくる。
「ねえ、キョンくーん」
 スリッパをペタペタとならし、妹が俺の寝転がっているソファーに来た。手に持っているのは――
「返しなさい」
 俺の携帯じゃないか。イタズラとかしてないよな?
「なんかいっぱい鳴ってたよ」
 別にいちいち報告しなくていいぞ。どうせハルヒの奴が明日の連絡でもしようとしたんだろう。
 携帯をテーブルに置いてまた横になろうとしたが、
「でも、着メロがいつものと違ったよ」
 その瞬間、俺はさっと立ち上がって自分の部屋に駆け込んだ。
 着信履歴は……三件。
 最初の着信は家に戻ってきて風呂に入り始めたちょっと後。それから俺が風呂に入っていたり居間でぼーっとしていた間に二度の着信があった。
 こちらからかけてみると一コールで呼び出し音が止まった。
「一体どうしたんだ?」
「……」
 反応がない。一瞬、切れてしまったのかと思ったが、ディスプレイを見ると繋がっているのは間違いない。
「なあ、何かあったのか?」
 もしかしたら話すことの出来ない状況なのかと思っていると、
「……まだ?」
 ようやく長門の声が聞こえた。
「まだ、って何の事だ?」
「戻ってくるのを待っていた」
 えーと、それは……
「また、と言ったから」
「俺はまた明日、って意味だったんだが……」
「……」
 しばし沈黙。長門の規則正しい呼吸が受話器からは聞こえてくる。
 お互い、なんとなく言葉を発しづらい。
「……そう」
 呟いて、長門の口が遠ざかるのを感じた。
「ちょっと待った!」
 もう聞こえなくなったかと思ったが、少しの間があって「なに?」と声が聞こえた。
「さすがに今から行くのは無理だ」
「……そう」
「でも、たまには電話で話してみないか?」
「……それでいい」


 それから俺達は珍しく電話で話し込んだ。
 普段一緒にいるからあまり使う事がないのだが、面と向かって話すのより妙にドキドキしてしまった。
 いつもと違って顔を見て気持ちを読むことが出来ないのでしばらくは長門の意図を掴めなくなりそうだったが、それに気付いた長門が積極的に口を開くので、長門はいつもより饒舌だった。
 そして時計を見て、ちょっと長くしゃべりすぎた事に気が付いた。
「じゃあ、そろそろ切るぞ」
「……そう」
 明らかに残念そうだ。俺だって名残惜しいのだが、高校生にとって携帯の通話料ってのはかなり高額であり、これ以上は財政崩壊の恐れがある。
「たまには電話もいいもんだな」
「たまには」
 それから何か言いよどむような沈黙があって、
「でも、わたしは一緒にいる方が好き」
 と言ってプツンと切れた。