今日の長門有希SS

 12/2212/23あたりから続いてます


 朝、教室に入るや否や、待ちかまえていたかのようなタイミングで何者かにフェイスロックを食らった。
キョン、なんか面白そうな事やってるらしいじゃねえか」
 顔は見えないが声でわかる。それに、こんな事をするような男子生徒は他にいない。
「一体何の話だ、谷口」
 それを振りほどくと、谷口はアメリカ人の様に手を広げるジェスチャー。古泉がやると悔しいが様になっているのだが、こいつがやっても滑稽なだけである。
「とぼけるなって、聞いたんだぜ」
「何をだ?」
 それから谷口が語ったところによると、どうやらSOS団の部室で仮装パーティが行われているらしい。しかもそこには普段SOS団に出入りしていない女性が二人ほど参加しているとの情報があったとのことだ。
 どうやら先日の放課後の時、手洗いの行き帰りやドアが開いた時などにコスプレしながら勉強している俺達の姿を偶然見かけて、谷口にその話をした者がいるらしい。
「なあキョン、テストが近いってのにお前らは一体何をやってんだ?」
「テスト勉強だ」
「嘘つけ」
 しかしながら、残念ながら本当だ。確かにコスプレをしていたのは確かに事実ではあるが、テスト勉強をしていたのも事実である。
「じゃあ、他の女子生徒がいたって話はどう説明するんだよ」
 それは恐らく鶴屋さんを目撃したんだろう。朝比奈さんの付き添いでやって来た彼女は、確か昨日はチアガールの恰好をしていたんだったか。
「それだけじゃないぜ。後ろ姿しか見てないらしいが、モデルみたいに背の高いショートカットのメイドがいたって聞いたぞ」
 はて、そんな奴はいたかね。見間違いだろう。
「ともかくだ、テスト前だってのに羨ましすぎるんだよ。朝比奈さんだけじゃなくて、その美人のお友達に、それにあの長門有希だってコスプレをしていたんだろ? ついでに涼宮だって見てくれは悪くないしな」
「あたしがどうかしたって?」
 さて、タイミング良く、いやタイミング悪く声をかけてきたのはもちろん今話に登場した人物に他ならない。
「いや涼宮、別になんでもないぜ」
「怪しいわね」
「俺達の勉強会が羨ましいんだそうだ」
 嘘はついていない。ハルヒは妙なところで勘が鋭いので、下手に嘘をついてもばれてしまう。
「ふーん……それじゃ、あんたも来る?」
「いいのか!?」
 谷口はぱあっと目を輝かせる。
「あたし達の邪魔しないなら別に良いわよ」
 やけに嬉しそうな谷口を見てハルヒは同情するような顔。いつも成績がピンチだから俺達とテスト勉強をして成績アップを狙っていると思っているのだろうが、こいつが本当に狙っているのは他の要素である。
 それを言うと俺もハルヒに攻められるので、とりあえずそこでは黙っておいた。


 さてその日の放課後。
キョン、話が違うじゃねえか」
 どんよりとした顔でのろのろとペンを動かしながら、俺をにらみ付けてくる。いや、別に俺には何の責任もない。
「まあまあ、それよりちゃんと勉強しようよ」
 と、こっちは真っ当に勉強する気らしいのが国木田だ。谷口が自慢していたのを聞いてハルヒにあっさり許可を取り、ここにいる。
 谷口が何について不満を持っているかと言うと、今日は全員が制服だからである。その理由は「今日は別にコスプレしなくてもいいわ」とか言いだしたというだけの事だ。
 しかも、こいつが不機嫌なのはそれだけが理由ではない。
「谷口、あんたお茶でも淹れなさいよね」
 ハルヒの中では客=もてなされる側という構図が無いようで、谷口を雑用係として使うことに決めたようだ。本来なら怒鳴り散らしたいはずのその命令に従っている理由は、お茶を注いだ時に朝比奈さんが律儀に礼の言葉をかけているからに他ならないだろう。
 谷口は時折、勉強に詰まると何かを求めるように朝比奈さんの方に視線を送るが、
「おや、わからないところがあるのですか?」
 と、国木田だけでなくお節介な古泉が間に入ったりもする。まがりなりにも古泉は特待生クラスに所属しており、その学力は保証済み。もっとも谷口にはいい迷惑なんだが。
 現に谷口もわからなかった部分が解消されているようだが、
「せっかくだったら朝比奈さんに教えてもらいたかったぜ……」
 などと不平を口にする。教えてもらった相手が不本意だとしても、身に付いたのだから上出来だと思うのだが。


 さて、そんなわけでその日の放課後は谷口と国木田を交えてのテスト勉強だったが、それから谷口が勉強会に参加したいと言い出す事は二度と無かった。