今日の長門有希SS
のんびりとコタツに入り、隣に座る長門の髪をなんとなくいじっているとふと気が付いた。
「ちょっと伸びてるな」
「……」
長門は手を伸ばして自分の髪を触ると、
「確かに」
と、認める。
「……」
それから、長門はしばらく俺の顔をじっと見ると、俺の頭に手を伸ばした。
「あなたも」
そういや、確かに俺もしばらく床屋に行ってないかも知れないな。ここのところ何かとバタバタして忘れていた。
「あなたも一緒に切る?」
そう言えば、長門がどこで髪を切っているのか知らなかった。
「一体、どこで切っているんだ?」
「ここ」
「えっ、今回はキョンくんもなの?」
その翌日に現れたのは朝倉だった。ある意味、予想通りだ。
朝倉は何やら小さいバックを持っている。
「色々、揃えてるの」
そこから多種多様のナイフが出てくるのかと思いきや、意外なことに銀色の細長いハサミだった。
「意外ってのは失礼じゃない?」
刃先をこっちに向けるな、危ない。
「これね、けっこう高いものなんだ」
ハサミを持ってニコニコとしている朝倉を見て、俺は認識をちょっと改める。
こいつはナイフマニアではなく、刃物マニアなのだ。こいつの部屋には各種ナイフが揃っているのは当然だが、調理用の包丁、鎌、手裏剣など色々なものが揃っているに違いない。
「キョンくん、なんかすごく失礼な事考えてるよね?」
そんな事を考えてるわけないじゃないですか、ええ。
「……」
そのようなやりとりをしていると、スッと長門が俺達の間に顔を出した。
「どうしたの?」
「早く切って」
それから床に新聞を敷き、椅子を置き、そこに座らせた長門の首にタオルを巻いて水色のビニールのカッパのようなものを被せた。なかなか本格的なもんだ。
「最初は、一回千円の床屋に行くって言ってたんだよね」
手慣れた手つきで髪を切りながら、朝倉は遠くを見るような目で言った。
「いい美容室があるよって言っても、お金の無駄だって言って聞かなかったの」
朝倉自身はその美容室で切っているんだろう。まあ、何となく違和感がない。
しかし、床屋に行く長門を想像し……ああ、店員も困るだろうな。今よりかなり短く、男の子っぽい髪型にされそうだ。
「その時、ああわたしが切らなきゃいけないんだな、って思ったのよ」
こいつは本当に、長門のバックアップとして存在していたんだな。いや、だから義務感があってやっていたとかそう言うわけじゃなくて、二人はそのような関係なのだ。
「もし床屋で切ってたら、キョンくんとどうなってたんだろ?」
朝倉は手を止めて、こちらに視線を送ってニヤニヤと笑う。
「別に変わらないさ」
容姿から入ったわけじゃないからな。例え坊主頭だって……いや、やっぱりそれは嫌だが、別に髪型が違ったら付き合ってなかったとか、そんなのはありえないぞ。
「そ」
再びシャキシャキと手を動かし、しばらくして完成。
「うん、これでいつも通り」
ブラシで髪に付いた毛をほろって、ニコリと笑う。
「シャワー浴びて来てね」
もぞもぞと服の上に身につけていたものを脱ぎ、長門がトコトコとこちらに歩いてくる。
「どう?」
「いつも通りだ」
「そう」
「いつも通り、かわいいぞ」
「……そう」
そのままトコトコと、浴室に消えていった。
「見せつけてくれちゃって」
朝倉は苦笑して俺を見ている。
いや、つい……な。
「で、どうするの?」
「ん?」
一体なんの事かと思っていると、
「キョンくんも切るんじゃなかったっけ?」
そう言えば、そんな話もあったな。すっかり忘れていた。
「じゃあついでにお願いするか」
別に、いつも行っている床屋じゃないと嫌だって事も無いからな。
それからしばらく朝倉に髪を切ってもらっていたのだが、
「ごめんね。長門さんの場合はカミソリとか必要ないから持ってないの」
と言って、どこからともなく巨大なナイフを取り出した。
「やめれ」
「でも、剃らないと」
朝倉はいきなりガッチリと俺の顔を押さえつける。やめろ、胸があたってる。
「動いたら痛いから暴れないでね」
妙に冷たく、やたら切れ味の良いナイフで顔やら首やらを剃られる事になった。
「これ、鉄も切れるけどコンニャクとか柔らかいものは切れないから」
安心していいのか、それ。