今日の長門有希SS

 休み時間、俺は谷口や国木田とゲーム機を囲んでいた。これは品薄状態が続く携帯型ゲーム機で、ペンを使って操作するという特殊な仕様のものだ。
 谷口は近所のゲームショップや家電量販店などを探し回ってやっと見付けたそうで、誇らしげに見せびらかしてくれたわけだ。
 現在、俺がやっているのは自分の脳の年齢を計るというものだ。実際にゲーム機のマイクに向かって声を出したりと、なかなか面白い。
「あんた達、何やってんの?」
 ひょっこりのぞき込んできたハルヒに、谷口は露骨に嫌そうな顔をした。確かにハルヒは珍しいものに対する興味は人並み以上で、特にこいつは何度かハルヒがらみでめんどくさい目にあわされているからな。
 しかし、携帯型ゲーム機なんて今さらそう珍しい物でもない。ハルヒだって別に興味を示さないだろう。
「あ、これあんま売ってないやつじゃない。あたしにもやらせてよ」
キョン……」
 谷口が捨て犬のような目で、何とかしてくれと訴えかけてくる。
 仕方ない。ここはビシッと男らしく、
「一回で返せよ」
 やっていたのを中断し、俺はハルヒにそれを手渡した。
「ありがと」
 礼を言うなら谷口に言ってやれ。
 ともかく、ハルヒはニコニコと笑いながらゲーム機に向かってじゃんけんをしたりしている。
 そして、しばらくして、
「なんであたしがこんな年なのよ」
 ハルヒの示した画面には、二十歳と表示されていた。
「涼宮、それ良い方だぞ」
 谷口がハルヒからゲーム機をひったくって、何やら操作する。
「俺がこうだからな」
 画面には、三十五歳との表示があった。
「あんたおっさんじゃないの!」
 それを見てハルヒが爆笑。いや、そこまで笑ってやるなよ。
キョンは何歳だったの?」
 判定が出る直前にお前に貸したからわからないな。
「じゃあ、今やんなさいよ」
 やれやれ。中断させた原因のくせに良く言うな。
 ともかく、谷口から受け取り、先程と同じ手順で年齢測定。
「二十六だ」
 先程やって多少慣れていたというのもあるだろうが、それなりに若く判定が出た。
「ふーん、あたしほどじゃないけどなかなか良いじゃない」
 まあな。しかし、お前に勝てそうなやつもあんまりいないよな。せいぜい長門あたりか。
「あ、そうだ」
 ハルヒがニンマリと笑う。
 このような表情をハルヒが浮かべた時、ハルヒ以外の人間にとっては悪い事が起きる場合が多い。
「谷口、ちょっとこれ貸してよ。団員の年齢調べたいから」
「ちょっと待てよ、買ったばかりなんだぜ」
「いいじゃない。あんたの物はSOS団の物、SOS団の物もSOS団の物よ!」
 そして、SOS団の物はハルヒの物であり、ハルヒの物はハルヒの物なんだろう。
キョン……なんとかしてくれよ」
 仕方ない。ここはビシッと男らしく、
「谷口、悪いが貸してくれ。明日には返す」
 と頭を下げておいた。


 で、放課後。
「僕は四十歳でした」
 古泉の脳はどうやら谷口以上におっさんだったらしい。まあこいつの場合はゲーム全般が苦手なようなので、仕方ないと言う気もするが。
「じゃあ次はみくるちゃんね」
 ハルヒが朝比奈さんに手取り足取り操作法を教えているのを、古泉は涼しい顔で見ていた。かなり高齢の判定が出たわりに、ヘコんだりしている様子はない。
「あたしは五十八歳でしたぁ」
 朝比奈さんは定年間際の年齢だったらしい。さすがにその年齢ともなると、胸とか色々と大変そうだ。
「さて、ここからが本番ね」
 ハルヒが顔を向けた先にいたのは、我関せずと読書を続けている長門だった。確かに、俺も一番気になるのは長門だ。
「有希、ちょっとこれやってみて」
「……」
 ハルヒからゲーム機を渡された長門は、黙々とそれを開始。
 声でじゃんけんをするのだが、何やら機械の反応速度を超えているような異常なペースでグーやらパーやらを言っている。
「終わった」
 そして、長門はこちらにディスプレイを向けた。
「若っ!」
 ハルヒが驚くのも無理はない。そこには「三歳」と表示されていたからだ。


 いや、ある意味、正しいんだけどな。