今日の長門有希SS
洗濯物を色落ちするものとそうでないものに仕分けしてから、その半分を洗濯機に放り込んでスイッチを入れる。洗剤の入った水の中を、洗濯物がくるくると回る。
長門の部屋で寝泊まりする時は、料理以外でもそれなりに家事を手伝っている。洗濯や掃除、その他色々。
家事を手伝うと言っても、それほど大した事をやっているわけではない。長門の部屋には物が少なくすっきりとまとまっているので、掃除にかかる時間はかなり短い。長門は私服をあまり着ないため、洗濯物は下着類が中心で量も少ない。
しかし、こうなる以前は女性物の下着を洗う事になるなんて思ってもいなかった。そもそも自分の家で家事をする事もほとんど無いので、ネットに入れて洗うとか長門に教えてもらって知った事だ。
洗剤やネットが入っている棚を整理していると、棚の奥に小さな箱が置いてある事に気が付いた。真新しいものではなく、ちょっとホコリをかぶっているので、最近は使っていないのだろう。今まで何度が洗濯をしているが、気が付いていなかった。
気になって取り出すと、箱の中でカラカラと乾いた音が聞こえる。箱自体は軽い。
妙に中身が気になった。最近ならともかく、俺と付き合う以前の長門は使わない物をあまり持っていないので、長門にとって必要な物なのだろう。しかし、それにしてはこの箱はずっと放置されていたように見える。
まあ、隠しているわけじゃないから別に見られて困る物でもないのだろう。俺はその正体を知るために蓋を開け――首を捻った。
入っていたのは、直径十五センチくらいのボール。色は白く、プラスチック製でカゴみたいにスカスカだった。
用途がわからない。まさか、投げて遊ぶとかじゃないよな?
よく見ると、大きなボールの中に小さなボールが入っている。ちょっと引っ張ると、外側の大きい方のボールは真っ二つにぱかっと割れた。
本当になんなんだろうな、これ。
「おーい、長門」
気になって仕方がないので、俺は直接本人に聞いてみる事にした。洗面所を出て、リビングで床掃除をしていた長門を見付ける。
「なに?」
長門は俺の呼び掛けに首を捻る。
「これは何なんだ?」
俺が持ってきたボールを見せると、
「……」
長門は、困ったように目を伏せた。
もしかして、見られると困るようなものだったんだろうか?
「いや、すまん。なんでもない」
無かったことにして戻ろうとすると、腕に抵抗を感じる。
「……」
長門が服の袖を掴んでいた。
「別に見られて困るものではない。ちょっと驚いただけ」
そうか、それなら良かった。じゃあこれは一体?
「それは下着を型くずれさせずに洗濯するためのもの」
しかし、俺は今までこれを使った記憶がない。もしかして、俺はずっと間違った洗濯の仕方をしていたのか?
「大丈夫、あなたの洗濯の手順は正しい」
長門はしばらく沈黙してから、
「それは、ブラジャーの型くずれを防ぐためのもの」
「え!?」
俺は思わず驚いてしまう。だって、長門は、
「二年ほど前に朝倉涼子に勧められて購入してしばらく使用していた。でも、そうする必要を感じなかったので、今は使用していない」
沈黙してしまったのは、一応、それが必要のない自分の体型を気にしているからだろう。
「じゃあ、片付けておくな」
また仕舞うために洗面所に戻ろうと長門に背を向けると、
「そのうち、またそれを使う事になるかも知れない」
長門は少し間を空けて、
「あなたがわたしを、それが必要な体型に変えてくれるから」
と言った。
俺は、それを言った時の長門がどんな顔をしていたのか見ることが出来なかった事が、とても残念だった。