今日の長門有希SS
昨日(9/19)の続きです
ベッドに横になって窓の外をぼーっと眺める。勢いはかなり落ちたものの、雨が止む様子はまだない。
先ほどまで部屋にいた長門は、妹に誘われるまま風呂に行ってしまい、俺は一人残されていた。
暇である。
しかし、この時間に風呂と言うことは、やはり泊まるしかないという事だよな。風呂上がりで湯冷めさせるわけにもいかないし。
考えてみると、俺は長門の部屋に頻繁に泊まっているが、長門が我が家に泊まるというのはこれが初めてだ。しかし、一体何回俺は長門の部屋に泊まったんだろうな。長門に聞けば正確な回数を教えてくれるかも知れないが、もはや俺には想像も出来ない。
長門の家にどれくらい入り浸っているかと言うと、念のために着替え用の服一式を置いているくらいである。
ん……そう言えば、長門は風呂上がりに一体、
「キョンくーん、お風呂空いたよー」
ドアを開けて妹が顔を出す。それで、今まで考えていた事が少し飛んでしまった。
「ああ、それじゃあ入る――」
更にドアが開いて、長門の姿が見えたところで俺は言葉を失った。
ほんのりと肌を上気させた長門は、俺のぶかぶかのTシャツを羽織っていた。長門には着替えが無いから仕方がないとは言え、この服装は俺の劣情を駆り立てる。今夜は覚悟しておけよ。
「服を借りたのはいけなかった?」
俺の沈黙を勘違いしたのか、長門はすまなそうに問いかけてくる。
「いや、全然かまわないぞ」
むしろ、お前の部屋でもその恰好をしてくれていいくらいだ。いや、出来れば俺のYシャツの方がいいかも知れないな。よし、今度、持っていこう。
「キョンくん、お風呂冷めちゃうよ?」
「ああ」
名残惜しいが、俺はその場から離れて風呂に向かう。
「ん?」
脱衣所で服を脱いでいると、カラカラと洗濯機が動いている事に気が付いた。この音は恐らく脱水か乾燥だろう。
長門の服を洗っているのかと思いきや、脱衣カゴの横には、先ほどまで長門が着ていた服が丁寧に折り畳まれている。
待てよ。
今、この洗濯機に入っているのは、上着ではなく、下着?
ということは、先ほどの長門は、Tシャツだけを身につけていた事に――
クラっと来た。
しかしながら、ここでムラムラしていても仕方がないので、風呂に入る事にしよう。そして、早く風呂をすませて、長門を観察しなければならない。しなければいけないんだ。
というわけで、急いで風呂に入り、急いで体を洗う。カラスの行水って諺があるが、今の俺はまさにそれ。
しかし、それでも体はきっちり洗う。丁寧に洗おう、特に下の方を。汚れた体じゃ長門に失礼だしな。
そして風呂終了。脱衣所に出ると――役目を終えた洗濯機の蓋が開いており、空になっていた。
くっ、間に合わなかったか!
「……」
暗い部屋。静かな部屋の中、雨音だけが聞こえている。
風呂に入る前にピークに到達した煩悩は、そのまま行き場のないままに宙に浮いている。
理由は簡単。俺は一人で寝ているからだ。
風呂の後、妹を交えて三人でトランプをした。長門の圧勝かと思いきや、妹レベルまで手加減しているらしく、結果的には勝率は俺が一番高くなったが、それはまた別の話だ。
ともかく、トランプをやっているうちにウトウトしていた妹に寝るように言うと、妹は「有希ちゃんも一緒に寝て」と長門を連れて行ってしまった。
そのようなわけで俺は一人。精神が高ぶっていてなかなか寝付けない。このもてあます劣情を、俺はどうしたらいいんだ?
トントンとノックの音。
「長門か?」
「そう」
ギィとドアが軋んで、隙間から長門が顔を出した。
そのまま部屋に入ってきて、ベッドの横までやってくる。
「どうした?」
「寝付いたから」
妹を寝かしつけてから来てくれたらしい。なんというか、本当に姉や母親のようだな。
「嬉しいけど、無理に来てくれなくても良かったんだぞ」
頭に手をのせる。薄暗くて表情などはわからないが、何となく嬉しそうにしているように感じる。
「でも」
長門は少し言いづらそうに、
「先ほどのあなたの様子は、そうではなかった」
つまり、ムラムラとしているのが態度に出ていたということか?
「そう」
笑ってくれ、これが体をもてあます男子高校生の悲しさって奴だ。
「わたしはかまわない」
少し楽しそうな声を出して、長門がベッドに入ってきた。
それから小一時間後、
「キョンくーん、有希ちゃんがどこにもいないのー!」
妹が部屋に飛び込んでくる事になったのは、また別の話。