今日の長門有希SS

「やあ、どうも」
 掃除が終わって部室に向かうと、ドアにもたれて古泉が立っていた。
 朝比奈さんが着替えをしているのだろう。ここに来るのを遅らせて来たつもりだが、十分ではなかったようだ。
「ちょっと出歩きませんか?」
 と、こちらに向かって歩き出した。
「どういう風の吹き回しだ?」
「少々長引きそうなものですから」
 嫌な予感がした。一体、何が?
「いえいえ、ご心配なく。大した事ではありません」
 そして古泉はいつものスマイルを浮かべ、
「おごりますよ」


「で、どういう事なんだ?」
 紙コップを持ち、テーブルを挟んで古泉と向かい合っていた。
「また厄介な事でもあったのか?」
「いえ、本当にちょっとした事です。涼宮さんの興味が他に向いただけで」
 それは十分に厄介な事に思えるがな。
「あなたにとっては悪いことではないと思いますよ」
 そのニヤけ面ではそれほど説得力がないけどな。今までこの顔に何度胡散臭い話を聞かされた事か。
「せっかくの機会ですから、男同士の話でもしましょう」
 身を乗り出すな、気持ち悪い。
「で、どんな話をするってんだ?」
「例えば、エロ本の隠し場所とか」
 どこまで本気で言っているのか良くわからないが、たまにこいつとそんな話をするのも悪くないかも知れないな。
 エロ本か……妹が引き出しなどを勝手に開けるせいで、エロ本をどこに隠すかというのは昔からの命題だ。
 しばらくベッドの裏に貼り付けて隠していた事があるが、衝撃が加わって外れた事がある。たまたまその時は長門が部屋に来ていて、ひどく説教されたもんだ。
 あれ以来、エロ本の隠し場所には神経を使っている。
 お気に入りの1冊は、机の引き出しを二重底にし、その中に隠している。厚さの関係でせいぜい1冊しか隠せないのがこの方法の難点であり、それ以外のものは百科事典のケースの中に入れて本棚に隠している。
「お前はどこに隠しているんだ?」
「閉鎖空間に」
 嫌な利用法だな、オイ。


 そんなどうでもいい会話をしてから、古泉の「頃合いでしょうか」という言葉で部室に戻る事にした。
 結局、なぜわざわざ中庭に出ることになったのかは謎のままだ。まさか、エロ本の話をしたかったとは思えない。
 ともかく、部室に戻って何の気無しに扉を開け、
「な――」
 長門の姿を見て絶句。
「……」
 バニーガール姿の長門がチラリと俺の方を見てから、本に目を落とした。
「色々試したけど、あたし的にはこれが一番似合ったと思うのよ」
 なんだって、色々試しただと?
 くそ、どうしてその場に俺は居合わせなかったんだ。恨むぜ古泉。
「どうキョン、似合うでしょ?」
「ああ、そうだな。長門にバニーってのは盲点だったな」
 チラリと顔を向けると、
「ふうん、バニーの方が好きなんだ」
 と、ナース姿のハルヒ仏頂面で俺を睨んでいた。


 帰り道、ずんずん歩くハルヒに少し遅れて俺と長門は並んで歩いていた。古泉と朝比奈さんがハルヒをなだめており、こちらは話に集中できる。
「他にはどんなのを着たんだ?」
「メイド服、ナース服、着ぐるみ、チアガール、ウェイトレス」
 くっ、朝比奈さんの衣装をほぼ網羅していたのか!
 もちろんバニーガールも素晴らしいものだったが、他の衣装も気になる。これでは生殺しだ。
「大丈夫」
 そう言うと、長門はカバンをポンと叩いた。
「一着持ってきた」


 その夜、長門の部屋からは太い注射が云々という言葉が夜遅くまで聞こえていたとか聞こえていないとか。