今日の長門有希SS
カートに買い物カゴを載せてガラガラと押して店の中を歩く。斜め前を歩く長門が、棚から取った商品をカゴに入れていく。
夕飯と生活用品の買い物だ。ちょっと前までこんな風にスーパーに通うことになるとは思ってもいなかったが、慣れたもんだ。
前は俺が作っていたから買う物を選ぶ時も主導していた。しかし最近は長門が作ることも増えてきて、何を作るか知らされず長門が選んだ物から想像するという楽しみもある。
さて、今日は一体何を作るつもりなのだろうか。カゴに入ってるのは玉ねぎやニンジンやジャガイモなどいろいろな料理に使えそうなものだ。来る前に見た冷蔵庫に豚肉があったのはそろそろ使い切る必要がある。
それらをふまえて考えると、カレーあたりだろうか。
「え?」
「……」
思わず声を出てしまった。長門は大根を持ったまま、こちらに顔を向けて不思議そうに首を傾げる。
「いや、なんでもない」
「そう」
と、長門は大根をカゴに放り込んだ。
大根はあまりカレーには入れないから、違うメニューにするのだろう。カレーで無ければ――
「え?」
再び声が出る。
「なに?」
長門はカレールーを持って振り返る。
「いや、なんでもない」
「そう」
と、カゴに放り込む。
まあ、考えてみたら今日買ったものを全部使うとは限らないんだ。大根は今度使うかも知れない。それに、大根はカレー本体ではなくサラダにするという方法もあるんだ。なんだ、そう考えたら不思議じゃないな。
しばらく歩くと、鮮魚コーナーに通りかかった。そこで長門は立ち止まり、刺身を盛り合わせたパックに手を伸ばす。
「……」
何も言っていないはずだが、長門はチラリとこちらを振り返ってから、それをカゴに入れた。
今日は何を食べる気なんだろう。まさか、カレーと刺身か?
「長門、夕飯はどうするんだ?」
スーパーから帰り、台所に向かう長門にたまらず質問した。
「できてからのお楽しみ」
少し楽しそうにそう答え、台所に消えていく。
いつもならその言葉にワクワクと胸を躍らせるものだが、今日ばかりは不安感を煽られてしまう。
おかげで、待っている間も気が気ではなかった。買い物の前に炊飯器のスイッチを入れいていたから、おかずを作れば終わりだ。一時間もかからないだろう。
しかし、その一時間が妙に長く感じられる。台所の様子をうかがおうとそっと近づいていくが、中から「だめ」との声がかかって退散する。
気になって仕方がない。
と、台所から何かのにおいがするのに気が付いた。
これは……カレーだ。おいおい、本当にカレーと刺身なのか?
いや、別に食えないってわけじゃないが、なかなか珍しい取り合わせだ。少なくとも我が家では見たことがない。
「できた」
しばらくして声がかかる。ゴクリと喉が鳴った。
恐る恐る、台所に行くと――
「え?」
ご飯と豚汁、あと皿に盛りつけられた刺身があった。
「カレーはどこ行ったんだ?」
「煮込んで明日食べる」
そういえば、豚汁とカレーは具が似ている。今日の料理のついでに作っておくという事か。最初は全く料理をしなかったのに、ずいぶんと成長したもんだな。
「そうすれば、明日は二人きりで過ごす時間が増えるから」
ああもう、可愛いなあこんちくしょう。
そんなわけで、その日は長門の用意した夕飯を美味しくいただいた。