今日の長門有希SS

 春眠暁を覚えず。
 確かに、春はそれまでの寒さから解放されてぽかぽか陽気に誘われてついウトウトしてしまう事が多い。
 夏は暑すぎてダレてしまう。何もやる気がなくなって寝転がっていたら眠っていたなんてのは良くある事だ。
 秋は読書の季節だ。それと食欲の季節でもある。つまり飯を食って横になって本でも見ていたら、つい……なんて事もよくある。
 冬は寒い。コタツに潜り込んでうたた寝をした時の気持ちよさは格別だ。起きた時にズボンが寝汗で足にくっついている不快感を我慢すればだが。
 要するに眠いのは他の季節も一緒だ。年がら年中、季節に関係なく眠い時は眠い。
 だから、昼飯を食った後に中庭の芝生の上でのんびりしていた俺が眠くなるのも必然だろう?
「具合悪い?」
 隣に座っていた長門が首を傾げる。
 いや、大丈夫だぞ。ちょっと眠いだけだ。
「そう」
 日だまりの中、ただぼんやりと座っている。駄目だ、今起きているのが奇跡とも思えるほど眠い。
 一緒にいる長門には申し訳ないのだが、なんというか心が安まるせいかも知れない。
「無理しなくていい」
 長門の声がすぐ近くで聞こえる。いつの間にか、体がもたれかかっていた。
「あ、すまん」
「いい」
 さすがにこの状態は言い逃れが出来ないだろう。俺達が交際していることは内緒にしているのだから。
 それに、このままの姿勢でいるとすぐにでも眠ってしまいそうだ。こりゃ、午後の授業は完全に熟睡する事になりそうだ。
「だめ」
 いや、駄目って言っても眠いモンは眠くてだな……
「15分程度の仮眠は効果的。予鈴まで寝ればちょうど良い」
 長門はこう見えて言いだしたら聞かないところがある。俺のためになる事については、特にだ。
 ここは素直にその厚意に甘えた方が良いだろう。
「わかった。その時になったら起こしてくれ」
 芝生の上にごろりと横になる。空には雲一つ無い。
「……」
 視界の隅にある長門の顔がなんとなく不満げに見えた。ボウっと、前方を見ている。
 チラリとそちらに目をやると……カップルが膝枕をしているのが見えた。校内でさすがにあれは、いちゃつきすぎだと思うが。
「……」
 何も言わず、長門はそれを凝視している。
 そして、体育座りしていた長門は、腰を浮かせて正座をした。
「……」
 チラリと俺に視線を送る。
 寝ろってのか。こんな誰が見てるかもわからん中、お前の膝枕で寝ろってのか。
 こんな場所で、女子生徒の膝枕で寝るなんて……それはもう、交際宣言をするようなもんだろう。ハルヒが聞きつけたら何をされるかわかったもんじゃない。
「まかせて」
 どことなく、微笑んだように見えた。気のせいだろう。
「情報操作は得意」
 長門がそう言うのなら問題ないか。
 それに、長門自身がやってみたいと望んでいるのだ。それくらい叶えないとバチがあたる。
「じゃあ、頼んだ」
 長門の太股に頭をのせると、すーっと意識が奈落に落ちていった。魔力でもあるんじゃないだろうか、長門の体は。


 その翌日、
「聞いたわよ。あんた昨日、古泉君の膝枕で寝てたんだって? 女と付き合えないからって、ソッチに走るなんて……き、キョンのバカーッ!」
 妙な噂が流れていて、ハルヒに思い切りはり倒された。
 幸い、古泉にアリバイがあったためにこの噂はすぐに鎮火したが、一週間ほどはホモ疑惑がつきまとって谷口や国木田から敬遠される事になった。
 確かに女生徒との噂にはならないが……それってないんじゃないか、長門よ。