書いてごめんなさいSS
あつい、あつい……
天井を見つめ、私は熱い息を吐く。
クーラーがきいているというのに、ちっとも涼しくない。でも温度を下げすぎると体によくないからこれで我慢しなきゃね。
私は体調を崩して寝込んでいた。せっかく関東まで来たのに、悔しくて涙が出そう。せっかく、普段お世話になっているサークルさん達に挨拶回りをしたかったのに、そのために、わざわざあれを書いて……
「はぁ」
ため息をつくと、口の周りが熱くなる。どうしてこんな事になってしまったんだろ。
「やっぱり……これが原因かな?」
チラリと布団をめくり、自分の体を見る。
私はスクール水着を着ていた。
最近、あまりにも暑くてずっとこれを着て過ごしていた。そして、暑い日は庭にビニールプールを置いて水浴びをしたり、暑さをしのいでいた。そういう事が出来るから、スクール水着は便利なのだ。
でも、そのせいで体調を崩してしまった。こんなのってないよ。
そういえば、あの人も今回のコミケはお休みだ。
「おそろい……か」
口に出して、私は顔がカーッと熱くなっていくのを感じた。やだ、真っ赤になっているかな。誰もいなくてよかった。
最近、私とあの人の関係がちょっとした話題になっている。あの人がみんなの前で私に求愛してきたのが原因だ。あんな、大胆な告白って初めて。
それから、みんなにネタにされるようになった。そっとしておいて欲しいと思うけど、ちょっとだけそれも楽しかった。みんな、私達の事を茶化して絵を描いたりしてるけど、祝福してくれているのが痛いほど伝わってくるから。
薬が効いてきたのか、少しだけ意識がぼんやりとしてきた。目をつぶったら、あの人の夢が見られるかな?
…………………………
…………………………
…………………………
「あ……」
目を開けて、あたりをキョロキョロと見回す。
びっくりした。本当にあの人が看病に来る夢を見た。
あの人の、眼鏡の奥の瞳が優しく私を見ていた。スクール水着姿の私の体を。そして、タオルで全身の汗を拭いてくれた。スクール水着姿の私の体を。
あれが本当の出来事だったら、なんて素敵なんだろう。
そういえば、あの人はプロポーズしてくれたんだっけ。
『結婚してください』
あの人らしい、誠実なプロポーズ。それに私はまだ答えていない。その答えは、ここに……
「え……?」
おかしい。枕元に置いてあったはずの封筒がない。それのためにコミケに参加しようと思ったと言っても過言ではないのに、肝心のあの封筒が……
布団から起きあがって落ちていないか探す。ベッドの下にもないし、隙間にも入ってない。
あの人への伝言。スペースに置いたスケッチブックに貼り付けるつもりだったのに、一体……どこに?
「あ――」
ホテルに備え付けられたメモ帳、そこに、すらすらと鉛筆で描かれたのは、
「やだ」
ボッと顔が熱くなる。
そこには私の寝顔が描かれていた。この絵のタッチは、あの人のものだ。
あの夢は……ううん、夢じゃなかった。夢だけど、夢じゃなかった。
だったら、あの封筒に書いた言葉もあの人に伝わっているんだ。
「仕方のない奴だな君は。よろしくな」
それが、あの人へのプロポーズへの返事なのだ。