今日の長門有希SS
12/22、12/23、12/24、12/25、12/26、12/27、12/28あたりから続いてます
俺達はようやくテスト当日を迎えることになった。
長いようで短かった勉強会の日々。ハルヒが退屈そうにする事もなければ、機嫌を悪くする事もほとんど無かった。
俺達は珍しく、真っ当な高校生らしい日々を過ごしたのだ。
「キョン、赤点なんて取ったらわかってるんでしょうね?」
教室に到着したところでハルヒがそう声をかけてくる。
「取るはずがないだろ」
これほど勉強したのは入試以来だ。わからないところは長門やハルヒが教えてきたので、勉強の効率は普段よりもかなり高かっただろう。
「自信満々みたいだけど、油断すんじゃないわよ」
そう釘を刺したところでチャイムが鳴って教師が現れる。さて、テストの始まりだ。
テスト中の授業は午前のみとなる。俺達は昼食を持って部室に集まり、勉強会の前にまず食事をする。
普段は長門と二人で飯を食っており、長門の弁当も我が家の母親が制作しているのだが、さすがに今日ばかりは堂々と受け渡しをする事が出来ない。朝の内にこっそり渡してある。
「キョン、あんた自信あったみたいだけどちゃんと出来たんでしょうね?」
口に物を入れてしゃべるな。あと、箸を向けるな。
まあ、少なくとも普段よりは回答欄を埋めることが出来ている。八割……は言い過ぎか。今日やった主要科目なら七割はできたんじゃないかと思っている。副教科はそっちに比べるとあまりやっていないから微妙だが。
「あんだけあたしが教えてあげたんだから、出来てなかったら死刑よ」
死刑を免れる為に頑張らなきゃいかんのか。ハイリスクノーリターンだな。
「……」
何やら、隣に座っている長門がじっとこちらを見ているのに気がついた。
「どうした?」
小声で問いかけると、
「出来ていたら、ご褒美」
と俺にしか聞こえない程の声で囁いた。
長門の、ご褒美――
想像しただけでゾクゾクとする。良い意味で。そして性的な意味で。
最近はあまり長門と二人で過ごす時間が無いからそのような行為もお預け食らっているわけだが、テストをうまくこなしたら、もしや、長門はあの情熱のプレイ――
「キョン、ぼーっとしてないで早く食べちゃいなさいよ。明日もテストはあるんだからね」
へいへい。
そんなこんなで勉強会は続き、テスト期間は完全に終了となった。最終日終了後は打ち上げをする事になった。
SOS団員の他には、勉強会に参加した鶴屋さん、喜緑さん、朝倉、国木田が参加となり、かなりの大所帯となった。
人数が多くて出来ることも少なく、取りあえずカラオケへ向かった。
「そう言えば、僕にもオファーが来まして」
と古泉は自分のために作られたという嫌みなほどにさわやかな曲を披露した。SOS団の女性陣、それに鶴屋さん、朝倉、喜緑さんだけではなく、こいつにまで来たってのか。
「あ、忘れてたわ」
ぽんとハルヒが手を叩き、
「キョン、あんたにも歌を出さないかって連絡が来ていたのよ。ま、引き受けておいたから安心しなさい」
おい待て。
無理矢理知らない曲を何度も歌わされるという散々なカラオケ大会も終了し、今日のところは解散……してから、俺は長門と合流して部屋に向かう。
二人きりで過ごすのは数日ぶり。いや、会うのが不可能だったわけじゃないが、テスト期間で自粛していたってのもある。
「そう言えば、ご褒美って言ってたよな」
「……」
わずかに、首を縦に振る。
「自信があるから前払いしてくれないか?」
「……駄目だったら?」
「大丈夫だ。あんだけやって出来ていないはずがない。主要五科目全て七割以上は確実だ。出来なかったら逆立ちして鼻からスパゲティを食べてもいいぞ」
「そう」
長門はしばらく沈黙し、
「そこまで自信があるなら、いい」
ご褒美はすごかった。
さて、数日後にその結果が戻ってくる事になったわけだが、
「ま、そこそこは出来てるみたいね」
確かに普段よりは出来ている。それに、平均点もクリアした。
しかし……
「ま、次からはせめて七十点は取る事ね」
駄目でした。自信満々で書いた答えが空振りし、思った以上に点数が伸びなかった。
その後も授業のたびにテストが帰ってくる。結果が出そろってみれば、七割を超えたのは一科目。悪いのは平均点を少々下回っているものもあった。
普段の点数を考えればこれでもかなり健闘した方だ。しかし、長門にああ大見得を切ってしまったせいもあって非常に申し訳ない。
最後のテストが帰ってきて一時間費やした解説が終わり、休み時間になったところで俺はため息をつく。
「あれ?」
後ろからハルヒの声が聞こえてくるが、どうでもいい事だ。
「キョン、有希が来てるわよ。珍しい」
なんだって。
がばりと顔を上げると、顔半分をドアの陰から出してこちらをじっと見ていると長門と、そちらに向かってパタパタと小走りで駆けていくハルヒの後ろ姿。
何やらまずい気がして駆け寄っていくと、
「有希、あたしに何か用?」
なんて声が耳に入る。そして長門はふるふると首を左右に振り、じっとこちらを見ている。
「キョンに用なの?」
「そう」
ようやくドアのところに辿り着いた俺に対し、
「全教科七割超えると言っていた」
「あー……その、すまん」
「……」
冷たい目。その視線がもし温度を持っているならば、この教室だけでなくこの街(ゴッサム・シティ)は凍り付く。
今日の天気予報だ。寒波がやってくるぞ(フリーズ・イズ・カミング)。
玄田哲章の声でそう聞こえたような気がした。
「あんた、有希にそんな約束してたの? そう言えば、あたしだけじゃなくて有希にも教えてもらっていたわね。有希、こいつにどんな刑を与えるの? 死刑?」
「……」
長門は首をゆっくりと横に振り、
「はい」
と、後ろ手に持っていたスパゲティの皿を床に置いた。