杏子散華 〜謎の白い液体〜(仮題) サンプル1

 見滝原の繁華街。
 昼間はそれほど人が多くはないが、夕方になると学校帰りの学生で賑わう。大きなショッピングモールもあり、休日ともなれば近隣の町からも人が集まってくる。
 そこを一人の少女が歩いていた。パーカーを羽織り、ジーンズ地のホットパンツをはいた赤い髪の少女。
 佐倉杏子だ。
 杏子はゆらゆらと覚束ない足取りで歩いていた。頬は赤く上気し、額には汗が玉になっている。熱病に浮かされるように、口からははあはあと吐息が漏れる。
『無様ね』
「うるせぇよ……」
 頭の中に響いてきた声に対し杏子は小声で毒づく。
 相手の正体を杏子はわかっていないが、自分と同じ魔法少女だとは確信している。そうでなければ、こうしてテレパシーを使って互いの思考を飛ばして会話することはできないからだ。
『ふふっ、私が誰なのか知りたい?』
「……」
 杏子はその問いかけに敢えて無視を決め込む。
 こちらの思考はどんな些細なことでも完全に筒抜けなのに、向こうが伝えたいことだけをこちらに伝えてくる。ここ数日で杏子はそれを理解していた。
 実際は相手のことが気になっている。何者で、どんな目的なのか。
 今のところ相手の魔法少女は、杏子に肉体的な危害を全く加えてきていない。精神的にはかなりダメージを受けているが、今のところ身の安全は守られている。
 だからこそ相手の目的が計りかねている。ひょっとするとそれが目的なのかも知れないが、更にまだ続きがあるのではないかと考えると寒気がする。
 今までされてきたことだけでも気が滅入っているというのに。
『イライラしているようね。ちゃんと栄養摂ってる?』
「――っ、誰のせいだと思ってんだ!」
 思わず声を漏らしてしまう。近くを歩いていた学生が不思議そうに顔を向けてきたが、杏子が睨みつけると逃げるように足早に去っていった。
『ふふ、怖い怖い』
 茶化すような声に苛立ちが募る。
 しかし、何もできない。原理はわからないが、杏子は相手の命令には背けないようになっている。今だって体の自由を奪われ、操り人形のようにされている。
 逆らおうとしても無駄なのは既に嫌と言うほど理解させられている。変身したところで強制的に解除されるという絶望的な状況だ。
 結局のところ、杏子は相手が満足するまで付き合ってやることしかできない。嵐が過ぎ去るのを待つように、何も考えずただ時間が過ぎるのを祈る。
『そんなにつまらないなら、いい気持ちにしてあげる。ちょっと強くしましょうか』
 刹那、杏子の全身に電流が駆けめぐる。実際に電気が通っているわけではないが、我慢のできない感覚に貫かれ、杏子はポケットから手を抜いて街灯にもたれかかる。
 ヴヴヴヴヴヴヴ――
 人混みの喧噪の中、機械の振動する音が杏子の耳に届く。周囲にも聞こえているのではないかと慌てて見回すが、誰も杏子に気にかけてる様子はない。
 考えてみれば、町中にはもっと大きな音が溢れている。意識しなければこんな小さな音は気が付かないだろうし、例え聞かれたとしても、携帯が振動している音にしか思われないだろう。杏子はほっと息を吐く。
 しかし、込み上げてくる快楽には我慢ができない。金属製の街灯を両手で掴み、倒れないようにハアハアと荒い息を吐く。
 杏子の下着の中にはローターが取りつけられている。ここに来るまでも弱々しい振動を伝えていたが、振動が強くなってまともに立てなくなってしまった。
 秘裂の奥からトロトロと熱い液体が湧き出てくるのを自覚する。こんな無機質な機械で快楽を引き出されるようになってしまった体に、杏子は自己嫌悪する。
 数日前までは、こうではなかったのに。
『杏子ちゃんったら、すっかりはしたない子になっちゃったね』
「うるさい――」
 それもこれも、全てこいつのせいだ。