今日の長門有希SS

 前回の続きです。


「待たせたわね」
 そんな言葉を口にしつつ、部室に入ってくるハルヒ。別に俺たちはハルヒの到来を待っていたわけではないが、どこで何をしているのかと頭の片隅に引っかかっていたので、目の届く範囲にいたほうが精神衛生上は好ましい。
 ハルヒの背後には背後霊のように古泉が付き従っている。もっとも、あれほどにこやかな背後霊など見たことがない。いや、背後霊自体見たことないが。
 その古泉は、椅子に座りつつ手に持っていた紙袋を床に置いている。遅くなった理由がその紙袋の中身である火を見るより明らかだ。
 顔を上げた古泉と目が合う。何か言ってやろうかと思ったが、ちらりとハルヒに視線を向けてから曖昧に笑う様子を見て俺は口をつぐむ。
 放っておいてもあいつが説明してくれるってことか。俺たちが望む望まないに関係なく。
「じゃあ、いいかしら」
 朝比奈さんが置いたお茶を口に運び、こほんとわざとらしく咳払いをしてからハルヒが口を開く。
 ハルヒが何か言い出すのはわかっていたので、もちろん俺たちは聞く心構えはできている。オセロ盤を片づけてから新しいボードゲームも出していないくらいだ。
「今回は一体何をさせようってんだ?」
「あたしたちSOS団は、ツイッターに参入するわよ!」
ツイッター?」
 ここのところテレビなどで耳にする言葉だが、詳しいことはよく知らない。
 携帯やパソコンでやるものらしいが、ただでさえエンゲル係数の高くなりがちな俺は携帯のパケットにあまり金をかけていられないし、個人用のパソコンは持っていない。興味があっても縁のない世界だ。
「相変わらずシケたこと言ってるわね」
 誰のせいだと思っているんだ。
「まあキョンがそういう反応をするってのはわかっていたけどね。古泉くん、あれを出して」
「了解しました」
 言われて動いた古泉は紙袋に入っていたものを机の上に置いていく。出てきたのは小さな箱が五つ。俺たちSOS団は五人だから、一人一つということだろう。
 俺たちが見守る中、ハルヒが箱の一つを開けて中身を取り出す。片面が液晶パネルになった携帯電話、いわゆるスマートフォンというものだろうか。
「これを使うから通信費は気にしなくていいのよ。思う存分つぶやいちゃえるわよ」
 どこかで見たような機械を手の中でもてあそぶハルヒから視線をずらし、俺は古泉を見据える。
「もしかして、わざわざ作ったのか?」
 俺がそう思ったのは、裏側には見覚えのあるSOS団のロゴが刻まれているからだ。古泉のバックにいる『機関』ならばそういうことをやりかねない。
「ええ、まあ」
 予想通りというか、古泉はあっさりとそう白状する。携帯型の端末まで用意するとは、一体どこまで無駄遣いすれば気が済むんだ。
キョンが変な誤解してるみたいだけど、物自体は単なるアイフォンよ。シールは作ってもらったけど。でも、古泉くんの親戚がそっち関係の仕事をしてて、モニターになって欲しいって貸してくれたからタダで使えるのよね?」
「はい。そういうことです」
 まあそれも違うのだろう。
 最初に俺が考えた「端末を作る」というのに比べると遥かにスケールダウンしたが、それでも五人分の電話代を負担し続けるとそれなりの金額になるだろう。ハルヒは今まで、どれだけの金を自覚しないで食いつぶしてきたのだろう。
「とにかく、お金の面でも問題ないわけだし、今日から始めるわ。いいわね」
「別に文句はないが、なんでわざわざそんなことをするんだ?」
「最近じゃ企業だってツイッターを取り入れてるのよ、SOS団の宣伝にもなるはずよ。何年か前にセカンドライフってのがプチブレイクしてすぐに別の意味でブレイクしたけど、今回のは長続きしそうだし」
「宣伝って一体何をやらせる気だ。世界を大いに盛り上げる俺をよろしくとでも言えばいいのか」
「う……ん? まあ、別に、普通にやってりゃいいわよ。ツイッターがはやり初めた頃だけど、どっかの店の人が普通に雑談してたら客が増えたって話よ。だから、それぞれの団員が好き勝手につぶやいてれば、それで興味を持ってくれる人がいるかも知れないし、それであたしたちに不思議なものを見つけたって報告してくれる人がいるかも」
 俺たちとしては、いない方が助かるなそんな奴。
「つーか、宣伝だけならブログとかでもよかったんじゃないか?」
「もうやってるわよ。ただ、最近あんま書くことなかったから、あんたと古泉くんの将棋の勝敗とか棋譜をメモったりする程度になってたけど」
 どこの誰が見たいんだそんな微妙なブログ。
「とにかく、ブログ書くのもめんどいし、五人でツイッターやるのよ! いいわね!」
 どうやらそっちが本音だったらしい。もちろん俺たちに反対できるわけもなく、アイフォンがそれぞれの手に押し付けられる。
 いち早く使い方を覚えた……というより、一目見ただけでわかっていたぽい長門に他のメンバーが色々と聞いたりして、その日は解散となった。