今日の長門有希SS

 休日に、俺たちSOS団は街を徘徊する。何度も繰り返されており、もはや恒例行事となっているので学校に行くのと大して変わらない気分になっている。慣れとは恐ろしいものだ。
 この集まりの目的は不思議な何かを探すことだが、誰も本気で探していない。言い出したハルヒですら、休日に集まるということそのものがメインになっているのではないかと思うほどだ。
 とまあ、そういったわけで、不思議なことなど見つけられるわけもなく、俺たちは青春の無駄な時間を浪費しているわけだ。何かが起きるよりも、何も起きない方が圧倒的に多い。部室で過ごす時間と大差ない。
 というわけで、ここのところ大きなことは起きておらず、午前の時間は何もなく終わった。メンバーは朝比奈さんと古泉。この組合せで歩いていると、何やら俺がひどく場違いに思えてくるので少々居心地が悪い。もちろん二人が悪いわけではないのだが。
 待ち合わせ場所に戻り、ハルヒ長門をぼんやりと待つ。比較対照になってしまうのがしゃくなので、俺は談笑する二人から離れて待つ。しかし、こうして客観的に見ていると、本当に美男美女の組合せだ。私服だとそれがより感じられる。
「お待たせー!」
 満面の笑みを浮かべたハルヒが走ってくる。後ろ手で長門の腕を掴んでの爆走だ。仮にあれが長門でなければ、足がもつれているに違いない。
「おやおや、ご機嫌ですね涼宮さん。何かありましたか?」
 そう問いかける古泉の顔がわずかに引きつっている。ハルヒはどちらかと言えばテンションが高い方だが、トップギアに入っている状態はそれほど多くはない。そして今がその珍しい状態だ。
「聞いてよ古泉くん、見つけたのよ!」
 何をだ。
「……」
 まず俺はハルヒの後ろに立つ顔を向けるが、ちらりと見返してきただけで反応を見せない。ごそごそとポケットをまさぐっているハルヒより、俺は長門に注視していた。
 心配しなくていい。長門の口がそんな風に動いたように見えた。しかし長門は「今日は大丈夫」と言って大丈夫じゃないこともあるので、本当に心配しなくてもいいのか判別できない。
「お金拾ったのよ!」
 そう言って、ハルヒは誇らしげに千円札を取り出した。
「それはそれは素晴らしいですね」
 古泉は本当に嬉しそうに答える。まあ実際、その程度のことで済んでよかったと思っているのだろう。俺だってそうだ。長門の「心配しなくていい」は本当だったようだな。
 しかし、千円でここまで喜んでいるとは、まるで小学生のようだ。
「さっそくなんか買うわよ!」
「なんの躊躇もなくネコババするのか」
「バカね、キョン。警察に届けたって落とし主なんて出てこないわよ。数ヶ月後にあたしのものになるって決まってるなら、今から使っても問題ないわ」
「遺失物は、三ヶ月以内に持ち主が出てこない場合、届けた者に所有権が移る」
「じゃあ使っていいわよね」
 何がどう「じゃあ」なのかはわからないが、どうせ持ち主は出ないだろうというのは同意できなくもない。財布ならともかく金そのものなら誰の持ち物かわからない。
 警察犬が犯人の遺留品から逃亡先を捜すというのをドラマなどで見かけるが、お金でもそういうことができるのだろうか。
「難しいけど不可能ではない」
 いつの間にか横に来ていた長門がぼそりと呟いた。
「できるのか?」
「紙幣には持ち主の匂いが付着する。ただし、最新の一人とは限らない」
「どういうことだ」
「今まで流通の際に触れてきた全ての人物の匂いが多かれ少なかれ残留する。もちろん、古いものは薄れている。しかし、長期間所有していた者がいれば、多少それが古くても最も強く残っていることもある」
「つまり、可能性はあるがそれほど高くないってわけか」
「そう」
「やらなくてもいいぞ」
 仮に匂いを特定したとしても、そいつを探すのが大変だろうし、根拠を言っても相手に信じてもらえないだろう。
「わかった」
「それじゃ、なんか食べ物でも買いに行くわよ! キョンネコババしちゃダメとか言ってたから、四人で山分けよ!」
 なんて言ってハルヒが歩き出す。五人で割れば二百円だから大した金額ではないのだが、一人だけ仲間はずれになると思うと少しだけ残念なのはなぜだろうか。
「大丈夫、わたしの分をわける」
「ありがとよ」
「ほらキョン! 早くしなさいよ!」
「はいはい」
 こうして俺たちは、テンションの高いハルヒの後に続いて歩き始めるのだった。