今日の長門有希SS

 季節は移り変わる。
 ちょっと前まで寒い日が続いてきたが、そろそろ春らしき日も増えた。とは言え、ちょっと天気が崩れれば時間が巻き戻ったのではないかと思ってしまうような気温まで落ち込むこともあり、未だに予断を許さない。
「そろそろコタツを撤去する時期じゃないか?」
「ありえない」
 長門が即座に否定した。今日は天気が悪く、うつぶせで肩のあたりまで入って読書をしている。まるでヤドカリのように見えなくもない。
「いや、まあ確かに今日は寒いが」
「予報によれば、数日おきに寒い日がやってくる。それを過ぎ去ってからでも問題はない」
 電源の入っていないコタツでぬくぬくと暖を取りながらそう言った。まあ、二人も人が入っていれば、今の時期は体温で十分に温かくなれる。というか、電源を入れると熱すぎる。
「いやまあ、お前がそういうなら強行するつもりはないが」
 トイレから戻ってきて、コタツと一体化しそうな長門を見て思いついただけで、別に何か信念があって言ったわけではない。それに、そもそも撤去すると言っても布団を外すだけだ。大した手間じゃない。
「あなたも入った方がいい」
「ああ」
 部屋自体を過剰に温めているわけではないので、コタツから出ていると微妙に肌寒い。コタツに入ったところで背中なんかは冷えるのだが、下半身を温めるだけでかなり違うようだ。
 まあ、長門のようにすっぽり入ってしまえば、全身くまなく温められるのだが。
「おっと」
 布団をめくると長門の足があった。反対側から肩のあたりまで入っているので、はみ出るほどではないがこちらまで浸食してきている。
 俺はそれを避けて、長門と並行になるように足を入れる。
「あ」
 長門の体に足がぶつかったらしい、長門が動いてコタツがわずかに振動した。
「悪い」
「……」
 長門はすっぽりとコタツに埋まっているので、こちらからは顔が見えない。最も、姿が見えていたところで、後ろ姿のはずだが。
「う」
 足にぞわりと奇妙な感触があった。くすぐったい。
「わざとやったわけじゃないぞ」
「わたしもわざとではない」
 言いながら、足の裏がつんつんと突かれている。指などではなく、恐らく肘でも使っているのだろう。
「はあ」
 コタツ布団をめくる。もちろんそこには長門の足があって、さっと引っ込めようとするが、俺はその足首を掴んだ。
「悪いな、わざとじゃないんだぞ」
 そういって、逆の手を使って足の裏をなぞる。あまり力を入れないように、触れるか触れないかといった感じだ。
「――っ!」
 がくん、コタツが跳ねた。長門の体がよじれたというか、尻がぶつかったようだ。
「指を使った」
「ん?」
「指を使ったということは、あなたも同じことをされる覚悟があるということ」
「なんだそのちょっとかっこよさそうな台詞は」
「問答無用」
 次の瞬間、俺の足が固定され、今までの人生で一度も味わったことのないようなくすぐったさが全身を駆けめぐった。


 それから数分後、長門が「動いたから暑い」と言って、コタツの布団を取り外していた。