デュラララSS

トム「腹減ったなあ」
静雄「そっすね」
トム「静雄、二郎でも行かねぇか」
静雄「ああ、あのラーメン屋っすか」
トム「あん? てめぇ、いまなんつった? 二郎がラーメン屋だって?」
静雄「ラーメン屋っすよね? 大勝軒の横にある」
トム「二郎があのクソラーメン屋の横にあるんじゃねぇ、二郎の横にクソラーメン屋があるんだ」
静雄「は、はあ……クソっすか」
トム「二郎をそんじょそこらのラーメン屋と一緒にすんじゃねぇぞ。二郎はラーメンじゃねえ、二郎だ!」
静雄「すんません」
トム「わかりゃあいいんだよ。じゃあ行くぞ、静雄」


静雄「そういやここ、いつも並んでるっすね」
トム「ったりめーだろ。並んで食うから二郎は美味いんだ」
静雄「そうなんすか。そういやここ、オープン前から列があるような……」
トム「ファーストロットは俺たちジロリアンにとっちゃ特別なんだよ。俺だってまだファーストロットを食えるほどの器じゃねぇ」
静雄「そうなんすか」
静雄(ファーストロットってなんだ?)
トム「店の敷地はもう二郎だからな、並んだら余計な事はしゃべるんじゃねえぞ。私語は罪歌ギルティだ」
静雄「は、はあ……」
静雄(罪歌ギルティ?)


臨也「あれー? しずちゃんジロリアンだったの?」
静雄「臨也! てめぇ、池袋に来んなつったろ!?」
臨也「おっと、怒んない怒んない。大声は罪歌ギルティだよ」
静雄「んだよその罪歌ギルティってのは!」


客「店の前での大声罪歌ギルティ!」
客「近所に迷惑罪歌ギルティ!」
トム「イケメン罪歌ギルティ!」


臨也「ほらね?」
静雄「わけわかんねぇよ」
臨也「まあ、しずちゃんジロリアンならさあ、ロットバトルで勝負しようよ」
静雄「ロットバトル? なんだそりゃ」
臨也「池二郎じゃロットバトルって言わないんだっけ? 最近、新宿ばかりだったから間違っちゃったかなあ」
静雄「てめぇがやンならいつでもやってやるよ!」


メキメキ――


客「券売機を投げたら注文できなくなる罪歌ギルティ!」
客「店内での暴力は罪歌ギルティ!」
トム「小野大輔罪歌ギルティ!」


臨也「違う違う。ロットバトルってのは、同じロットでの勝負さ」
静雄「ロットって一体なんなんだよ。そういや、トムさんもファーストロットがどうとか言ってたな」
臨也「麺ってさ、一度に一人分を茹でるわけじゃないんだよ。四人とか六人とか店によって違うんだけど、同時に茹でた麺が出る客を同ロットとか言うんだ」
静雄「そんな言葉に何の意味があんだよ」
臨也「大アリさ。例えば四人の麺が茹で上がったのに、三個しか椅子が空いてなかったらどうなると思う? 一人分の麺が無駄になっちゃうじゃない?」
静雄「席が空いてから茹でりゃいいだろ」
臨也「二郎みたいな行列店でそんな事をしたらいつまで経っても食べられないって。だから、同じロットのメンバーは、できるだけ同じタイミングで食べ終わるのがいいわけ」
静雄「飯を食うタイミングなんて人それぞれだろ」
トム「静雄、てめぇお食事気分で二郎を食う気か!? なめてんじゃねぇぞ!」
静雄「ちょっ、トムさん大声は怒られるっすよ」


客「正論非罪歌ノット・ギルティ!」
客「二郎はお食事じゃない非罪歌ノット・ギルティ!」


臨也「ほらね? もちろん早く食べ終わるのはいいけど、人より遅いとダメなんだ。お店としても一人分の麺が無駄になっちゃうし、それで麺切れになったら、本来食べられるはずだったお客さんが一人食べられなくなるわけ。わかった?」
静雄「わけわかんねーけど、一応はわかった」
臨也「だからロットバトルってのは、ロットメンバー同士での早食い勝負さ。しずちゃんが俺より食べるのが遅かったら、しずちゃん罪歌ギルティってわけ。単純だろう?」
静雄「俺は暴食は嫌いだ」
臨也「ふふ、じゃあしずちゃんは普通に食べればいいよ。俺はしずちゃんより早く食べるけどね」
静雄「わかった、てめぇより先に食ってやるよ! それでいいんだろ!」


客「店の前での大声罪歌ギルティ!」
客「近所に迷惑罪歌ギルティ!」
サイモン「オー、二人ともケンカは罪歌よくないネ!」


静雄「サイモン、お前いつの間に」
サイモン「さっきから二人の後ろに並んでたヨ。話は聞いたね、ジロリアン同士の決着はロットバトルでつけるべきだヨ」
臨也「ほら、サイモンもこう言ってるし、そうしようよしずちゃん
静雄「わかった……てめぇより先に食ってやる」


トム「静雄ー、お前も大の豚ダブルでいいよな?」
静雄「ちょっとトムさん、何で多そうなの買ってんすか。今、話聞いてましたよね? 普通か少ないのでいいっすよ」
トム「あん? てめぇ、俺の二郎が食えねぇってのか? 俺が三百円くらいでケチケチする男だって言いたいのか?」
静雄「いや、そういうわけじゃねーっすよ」
トム「じゃあ黙って食ってろ。二郎は大豚ダブルが最高なんだよ」
静雄「は、はあ……」
臨也「クク……面白いなあ。俺は普通にするけどね」
静雄「臨也、てめぇ……」
臨也「おっと、安心してよしずちゃん。そのかわり、俺は野菜多めにしてあげるから」
静雄「んだよその野菜多めって」
臨也「あれ、しずちゃん知らないの? ほら、あそこに張り紙があるだろう? 食券で買うメニューとは別に、二郎では無料トッピングがあるんだよ。野菜、ニンニク、脂、カラメ。野菜とニンニクはほら、あそこの客の丼、ああいう風に注文によって量が違うわけ。脂は見た目じゃわかりずらいけど背脂の量で、もちろん多い方がこってり。カラメってのは、カネシの量さ」
静雄「カネシ?」
臨也「ここで使ってる醤油タレの事だよ。二郎でしか買えない特別な醤油なんだ」
静雄「詳しいじゃねぇか」
臨也「来神にいた頃はまだ二郎に通ってなかったからね。色々、自分で作れるように研究したんだよ」
静雄「家でラーメン自作かよ。昔からてめぇはわけわかんねぇな」
臨也「ラーメン自作? 家二郎って言ってもらいたいね」
静雄「知らねぇよ」
臨也「ま、よくわからなかったら『前の人と同じ』とか言えばいいよ。しずちゃん、まだコールを言えないだろうし」
静雄「コール? んだよそれ?」
臨也「ほら、今あそこでトッピングのコールがあるから聞いててごらん」


店員「ニンニク入れますか?」
客「野菜多めニンニクなしカラメ」
店員「ニンニク入れますか?」
客「野菜少な目ニンニクアブラ」
店員「ニンニク入れますか?」
客「野菜マシマシアブラカラメ」
店員「ニンニク入れますか?」
客「ニンチョモ他普通」


静雄「俺、トムさんと同じって言う事にしとくわ」
臨也「それでいいと思うよ」


店員「すいませーん。そちらの四人、端から詰めて順番に座ってください」


トム「はい!」
静雄「うす」
臨也「じゃあ行こうか、しずちゃん
サイモン「腹もペコちゃんネ」


静雄「ええと……俺とトムさんが大の豚ダブルとやらで、てめぇが普通か。サイモンは何にしたんだ?」
サイモン「ワタシも普通ね」
静雄「その体で普通か?」
サイモン「この後、ロシア寿司で新製品の試食会あるんだヨ」
静雄「なんで食いに来てんだよ」
サイモン「一日一回二郎を食べないと死ぬネ」
トム「ブクロ人なら当然だろ?」
静雄「はあ……」
サイモン「オー、ワタシ今、いい新メニューを考えたヨ。シャリの代わりにスープと麺を置いて、その上にネタ代わりに野菜をのせるネ」
臨也「へえ、美味しそうじゃない」
静雄「ラーメンじゃねぇかよ」
臨也「おっと、店員さんが来るよ。コールタイムだ」


店員「ニンニク入れますか?」
トム「野菜タワーニンチョモアブラマシマシ」
店員「ニンニク入れますか?」
静雄「前のと同じで」
店員「ニンニク入れますか?」
臨也「野菜多め……おっと、カラメもお願いね」
店員「ニンニク入れますか?」
サイモン「ニンニクなし」


臨也「クク……楽しいなあ、楽しいなあ」
静雄「気味悪ぃな、んだよてめぇ」
臨也「いや、しずちゃんの上司? なかなか素敵じゃない。ジロリアン、ラブ! 俺はジロリアンが好きだ! 愛してる!」
静雄「大声出してんじゃねぇよ」


客「正論非罪歌ノット・ギルティ!」
客「ジロリアンラブは名言非罪歌ノット・ギルティ!」


臨也「ほらね?」
静雄「本当になんだよこの店……」
トム「静雄、そろそろ黙ってろ」
静雄「あ、そろそろ出て来るんすか?」
トム「二郎を食う前は精神集中しなきゃなんねぇんだよ。常識だろ?」
静雄「はあ、そうなんすか」
臨也「クク……」


店員「お待たせしました、ラーメン大の豚ダブルです」


サイモン「オー、健康によさそうね」
静雄「……んだよこれ。俺はもやしを食いに来たんじゃねぇぞ」
臨也「そりゃ、野菜タワーだからね」
静雄「てめぇ……知ってやがったな」
臨也「いやあ、正直、タワーを頼むとは思ってなかったよ。せいぜい野菜マシマシだと思ってたんだけど」
静雄「注文した後で止めやがれ」
臨也「ごめんごめん、でもコールって言い直したら罪歌ギルティなんだよ」
トム「ハムッ! ハフハフ、ハフッ!!」
臨也「さすが《ドレッド》のスタートダッシュは激しいなあ。俺たちも負けてられないよ?」
静雄「《ドレッド》だぁ? トムさんを変な呼び方してんじゃねぇぞ」
臨也「ジロリアンの間じゃ《ドレッド》は名の通った存在さ。正直、疑い半分だったんだけど、コールと食べ方を見て確信した」
サイモン「《ドレッド》と同じロットになるとは驚きネ」
臨也「何言ってんの? サイモンも二つ名持ちだろ?」
静雄「二つ名?」
臨也「《ドレッド》みたいに、有名なジロリアンには渾名が付くんだ。俺やサイモンにもね……おっと、おしゃべりはここまでだ、早く食べないと」
サイモン「そうだネ。後のお客さんに迷惑ネ」
静雄「くそっ、なんだよこのもやしの量……味しねーし」
臨也「そりゃ、野菜タワーなのにカラメコールをしてないから当然だよ。カラメにすると、野菜の上からカネシをかけてもらえるんだ」
トム「塩分の取りすぎは体に悪いからな」
静雄(なんでラーメン食ってんのに健康に気を使ってんだよ……)
臨也「もちろん崩すのは罪歌ギルティだから、しずちゃんは野菜を食べきらないとね。俺は伸びる前に麺を食べるけどさ」
静雄「くそ、全然減らねぇ。アホみてーにニンニクかかってるし、なんだよこれ……」
サイモン「もちろん残すのも罪歌よくないネ」


静雄「やっと野菜がなくなった……」
臨也「クク……しずちゃんは最高だなあ。まさか野菜タワーを片づけるとは思わなかったよ」
静雄「これでやっと麺とチャーシュー……くそ、なんだよこれ、麺も多いしチャーシューは固ぇし」
臨也「二郎の豚はチャーシューじゃないよ。カウンターの中を見てみなよ、鍋が一杯あるだろう? 塊肉を煮込んでスープを作るんだけど、その肉をカネシに漬け込んだのが二郎の豚さ。わかったかいしずちゃん
静雄「ご託はいい」
臨也「じゃあ、食べないとね……クク」
静雄「ああ――って、なんで野菜が増えてんだよ!? 俺は確かに、さっき食い切ったぞ!」


客「カウンターで大声罪歌ギルティ!」
客「厨房に唾が飛ぶ罪歌ギルティ!」
トム「ブラコン罪歌ギルティ!」


臨也「クク……そういうわけさ、黙って食べなよ。俺はもう野菜は食べ切っちゃったよ?」
静雄「てめぇがやったのか!? ケツから手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるぞ!」


乙女客「アナル攻め非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「しず×イザ非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「しず×イザ罪歌ギルティ!」
乙女客「しず×イザでもリバるから非罪歌ノット・ギルティ!」


静雄「なんだこの熱気……!?」
臨也「ああ、このあたりには乙女ロードあるからねぇ」
静雄「この店……本当にわけわかんねぇ」
臨也「いやあ、今のは二郎ってより、池袋東口の方の問題かな? まあ一応教えてあげるけど、俺は二郎では《二郎・デ・フォアグラ》って呼ばれてるんだ……クク」
静雄「くそ、食えばいいんだろ食えば。てめぇが何をしたか知らねぇが食ってやるよ」
臨也「いいよいいよ、さすがしずちゃんしずちゃん、ラブ! 俺はしずちゃんが好きだ! 愛してる! だからこそ、しずちゃんの方も俺を愛するべきだ」


乙女客「イザ×しず非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「イザ×しず非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「イザ×しず非罪歌ノット・ギルティ!」


静雄「さっさと食うか……なんか知らねぇが、ケツがむずむずしてきた」
臨也「そうだね、サイモンはそろそろ食べ終わるみたいだ」
サイモン「ハムッ! ハフハフ、ハフッ!!」
金髪「ハムッ! ハフハフ、ハフッ!!」
静雄「……なんだあの白人」
臨也「サイモンは《サイモン&ガーファンクル》って二つ名なんだ。俺も見たのは初めてだけど、あまりの食べっぷりに二人いるように見えるって話だ」
静雄「明らかに二人いるよな?」
臨也「気にしたら負けさ」


サイモン「ご馳走さまネ。それじゃあワタシは先に行くヨ」
ガーファンクル「では、我々はお先に失礼します」
静雄「やっぱり二人じゃねーか」
臨也「そう見えるだけさ」
静雄「あいつ、前に探し物がどうとかって看板持ってた女じゃねぇか?」
臨也「さあ、俺は知らないけど、とにかく食べなよしずちゃん


静雄「くそっ、もう食いたくねえ……」
臨也「ほらほら、あと一息だよ。俺はあと一本麺を食べたら終わりだけど」
静雄「さっさと食って帰っちまえよ。なんで横に座ってんだよ。うぜぇ」
臨也「あっさり勝負がついたらつまらないじゃない? ほら、俺が見てるから頑張りなよ」
静雄「あー、もういい。俺の負けだ。残す」
臨也「おっと、残すのは罪歌ギルティだ。仕方ない、俺が食ってやるよ」
静雄「て、てめぇ、俺の丼に……箸を……」
臨也「ん? どうしたのしずちゃん、顔、赤いよ?」
静雄「……なんでもねぇよ!」


乙女客「間接キス非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「体液の交換非罪歌ノット・ギルティ!」
乙女客「二郎で芽生える愛非罪歌ノット・ギルティ!」


静雄「帰るか」
臨也「そうだねえ」
静雄「食うの遅くなってすいませんっした。トムさん、行きましょう」


店員「もー、いつも言ってるじゃないですか。食べられないトッピングをしちゃダメだって」
トム「すいません……」
店員「野菜タワーとか言ってんのに、半分も残してるじゃないすか。麺にも豚にも手を付けてないし」
トム「すいません……」
店員「お客さん、残した分を捨てるのもタダじゃないんですよ?」
トム「すいません……」
店員「こういうお客さんがいるから、野菜タワーのサービスやめようって話になるんすよ。まったく」
トム「すいません……」


静雄「なあ臨也、これはどういう事だ?」
臨也「ああ《ドレッド》はね、こういう意味で有名なんだ。いっつも無茶なトッピングを頼んで残す迷惑な奴で、ジロリアンの風上にも置けないってね」