今日の長門有希SS

 コストパフォーマンスという概念がある。日本語にすると費用対効果などと呼ばれるが、要するに金額や手間に見合った質のことである。
 使われる場面は様々だが、わかりやすい例では食事だろう。特に外食の場合、店によって値段がまちまちで、出てくる料理も違う。大抵の場合は値段が高くなればなるほど料理の質も上がるが、値段が倍になれば味が倍になるかと言うと必ずしもそうとは言えず、また質だけでなく栄養や量などを考えると、一言でパフォーマンスと言ってもそれに含まれるものは様々だと言える。
 コストパフォーマンスの概念は娯楽などでも用いられる。例えば映画などは、映画館に行くか、DVDを買ったり借りるか、テレビ放送で見るかといった選択肢があり、それぞれ金額と内容が異なる。映画館の場合は公開してすぐ見られるし、劇場の大きなスクリーンで見られるが金額は高い。DVDの場合、買うとそれなりだが借りるなら映画館に比べるて値段がはるかに安い。劇場で上映されなくなってからしばらく待たねばならないが、半年も経てばレンタルショップで借りられるようになる。再生環境が人それぞれだが、映画館より迫力のある環境で見られる家庭はなかなかないだろう。テレビ放送は必ずしも放送されるとは限らないし、放送されるにしても一年や二年は待つことになるのだが、もちろん無料で見られる。おかしな編集をされていたり、CMが間に入ってストレスが溜まることもあるが。
 ちなみに映画の場合、原作の小説や漫画などがある場合もある。そもそも映像とは表現技法が違うし、映像化するにあたって大きく内容が改変されていることもあって純粋に同じ内容とは言えないが、そちらを選ぶこともまた選択肢の一つである。どちらがより満足度を感じるかは人それぞれだろう。
 さて、コストパフォーマンスは性的な方面でも論じられるべきだろう。
 高校生の小遣いの範囲内で手に入りやすいのは雑誌だろうか。グラビア中心の写実主義的な物は、現実を空想によらず、ありのままに捉えたエロスである。DVDがおまけとして付けられているものもあるが、これはなかなか金額が高い。最近はアダルトDVDも安くなっているので、バイキング的に短い映像をつまみぐいしたいのでなければ、一本の作品を購入したほうがいい場合もある。
 ちなみにアダルトDVDもそれぞれだ。値段のわりにやたら収録時間の長いものもあるが、大抵そういった作品は何かの性癖に特化したオムニバス的なものだったりする。これについて「一本のDVDで色々な女性の痴態を視聴できるのならお得じゃないのですか、ためらう必要があるがどこにあるだろうか」とおっしゃる方々もおられるかも知れないが、何人もの女優が登場するからには一人あたりに割かれる時間が短くなる。めまぐるしく切り替わる細切れの映像は、短い映像の中で一つの映像として完成させざるを得ないが故に慌ただしく、場合によってはいきなり行為から始まるものもある。行為の前には必ずしもインタビューシーンが必要だという主張をするわけではないが、時折、あのインタビュー映像をみたくなることもある。最初はインタビューシーンを飛ばしていても、行為を見ている内に「さて、この女優は一体どのような経緯を経てこの作品に登場し、我々に痴態を晒しているのだろう」などといった思いを抱くことはあり、そうした時に改めて見返すと興奮度が高まることもある。
 ちなみに、ストーリー仕立ての作品もあるが、このストーリーに感情移入しすぎるのも問題である。アダルトDVDで繰り広げられる物語は大抵において等閑な、とってつけたようなどうでもいい筋書きに過ぎないが、時に鬼才が腕を振るい、一大感動叙事詩となってしまうこともある。こうなってしまうと、性行為の場面だけ見ていた時は単純に興奮するだけだったものが、一本の作品を通して視聴することにより感極まって興奮どころではなくなるわけである。小説などで結末を読むことでそれまでの話が転換してしまうものがあるが、この場合、ストーリーを飛ばさずに見ることで自分の印象が変わってしまうのである。
 話が変わったが、要するに、アダルトDVDだけでも様々な作品があるというお話だ。
 写実的な作品についてはこのくらいにして、漫画や小説に目を向けてみよう。漫画の場合、雑誌形式がやはり安くて手軽で分量もあるが、雑誌の場合はかさばるし作家の質がまちまちであるといった弊害がある。まあ、雑誌によってある程度の質を維持しているものもあるが、時折、通知票ならばがんばりましょうと評価したくなるような作品が掲載されていることもある。これはまあ、様々な雑誌に手を出してそれぞれの特色を知ることで回避できることである。
 特定の作者の漫画が好きな場合、それがまとめられた本を買うのがいい。千円程度で、少年誌のコミックスに比べてちょっと割高に思えなくもないが、サイズが大きく紙質もいい。シリーズなどは一冊にまとめられており、定期購読していなかった雑誌に収録されていた作品であれば、読んでいなかった話を読むことができるのもいい。
 小説は、最近ではあまり主流とは言えないジャンルだろう。身の回りでエロ本に手を出している人間をあたっても「俺は官能小説を読んでいる」と断言する者は少ない。絵や映像に比べて読者の想像力がなければエロいと感じられないので、そういった意味では少々難しく、敷居が高いのかも知れない。
 しかし、コストパフォーマンスの点では官能小説は実のところかなり優れている。文庫本の場合は数百円。ワンコインとは言わないが、あまり高くはない。
 そして小説は読むのに時間がかかる。想像力が豊かであれば、文章からより多くの情報量を脳内で展開し、ある意味で漫画よりも濃密な描写を脳内で行うことができる。自慢ではないが俺はそれなりに性的な経験を重ねており、一つの描写から様々な情景を思い浮かべることができる。単純に妄想するだけでなく、かつて俺の身体を使って演じられた愛と肉の宴を想起することで、より興奮を得ることができるわけだ。
 さて、小説だ。小説に詳しいのは誰かと問えば、俺は一人の名前を挙げることになる。
 長門有希。俺のよき理解者であり、よき恋人。
 あれだけ様々な小説を読んでいるのだから、そういった方面に詳しいはずだ。長門はどちらかといえばSFに長じているが、実際のところあまりジャンルにこだわりは持っていない。
 というわけで、俺は問いかける。
長門、いいエロ小説を知らないか?」
「……」
 長門は本に視線を落としたまま、顔を上げることはなかった。