今日の長門有希SS

 雪が降ると、犬は庭を駆け回って猫はコタツで丸くなる。これはそれぞれの動物の特性を表しているが、人間にも犬タイプや猫タイプが存在する。
 実際、熱さや寒さ、雨や雪にも負けずに遊び回るような奴の心当たりがある。困ったことにそれは俺たちSOS団の団長であり、一人で遊んでいればいいものの、俺たちを巻き込むことが多いので厄介だ。
 しかしながら、今日のところは大丈夫なようだ。降っているのは雨と雪を混ぜ合わせたみぞれ状のもので、さすがにこの天気では遊ぶ気にもならないのだろう。おかげで俺はのんびりと、コタツで丸くなって猫のように過ごしている。
「……」
 この部屋にいる猫は一匹だけではない。コタツの向かい側にいる長門は、寝転がって胸のあたりまで布団に埋まっている。おかげでこちらからは顔を見ることはできないが、コタツの中で足がぶつかるのでその存在は伝わってくる。
「暇だな」
 つい言葉に出してしまうほど暇だった。もちろん長門と二人で過ごすことは苦痛ではないのだが、部屋に引きこもっているだけではさすがに退屈にもなる。身を乗り出してのぞいてみると、長門は本を開くわけでもなくぼんやりと横になっている。
「お前も暇なのか?」
「読み終わってしまった」
 長門の手元にはハードカバーの本が置かれている。確か、図書館で借りているのはそれだけだったはずだ。
「予約していた本は届いている」
「取りに行くか?」
「……」
 長門はちらりと窓に顔を向ける。
「晴れている時でいい」
 ま、この天気だとさすがの長門でも外出を控えたくなるわけだ。とは言え、こもっていてもただ時間を潰すだけ。こう言ってはなんだが、放課後の部室よりも生産性がない過ごし方だ。
 せめてテレビでもあればいいのだが、この部屋にはそういったものは置かれていない。
「暇つぶしができる場所に行く?」
 言って長門はコタツから這い出す。
「外に出るのは面倒だけどな」
「外には出ない」
「ん?」
 外に出ないで、どこかに行くというのか?
「わたしに考えがある」


「というわけで、遊びに来た」
「遊びに来た」
 支度をしてから数分、俺たちは朝倉の部屋の前に立っていた。
「えっと、これからちょっとお買い物に行こうかと思っていたんだけど」
「どうしても今日行かなきゃならないのか?」
「うーん、どうしてもってわけじゃないんだけど、できれば今日の内に済ませておきたいかなあ」
「そうか、わかった」
 と言って、俺と長門は部屋に上がり込む。
「勝手に映画でも観て過ごしているから、お前は心おきなく買い物してきてくれ」
「えっ? ちょっと待って――」
「してきて」
 長門がドアを閉めた。
 さて、こうして朝倉の部屋に上がり込んだわけだが、どうしたものかね。レンタルショップに行くのも面倒なので、この部屋にあるDVDでも見て過ごすか。休日の昼間のテレビはあまり面白いのがないので、最初からあてにしていない。
「映画はこのあたりに揃っている」
「どれどれ……ディズニーと恋愛映画ばかりだな」
 OLかあいつは。過激な性格をしているわりに、趣味はそうでもないのがあいつだ
「まだ観たことないのあったか?」
「一通り観ているはず」
「そうか。じゃあ、また観たいのはないか?」
「これ」
 と、長門が選んだのは3Dアニメの映画だ。週末の夜九時頃から何度か放送されているのを観たことがあるほど、メジャーな作品と言える。
「ま、それでいいか」
 ソファーに並んで座り、DVDを流し始める。面白い作品だが、既に観たことのある映画なので緊張感はない。横目で長門を見ると、こちらもあまり集中しているようには見えなかった。
 なんとなく、俺は脇腹を突いてみる。
「……」
 首を曲げてこちらを見てから再び視線を前に向ける。腹を立てている様子はないが、気にならないこともないのだろう。
長門
 再び俺が体に触れるが、今度は無言のまま正面を向いている。意地になっているのだろうか。最初は指先で突くだけだが、なんとなく頭を撫でてみたり、頬をつまんだりする。
「……」
 しかし長門はこちらに顔を向けない。
 長門も意地ならこちらも意地だ。今度は大胆に、長門の背中とソファーの間に体をねじ込み、両手で抱え込むように――
「何してるの?」
 朝倉に声をかけられ、俺はすごすごと長門の隣に腰を下ろした。