新刊「トモダチ」サンプル2

 女同士の集団には、少し特殊なところがある。
 大抵の女子はどこかのグループに入って、いつも決まったメンバーと過ごす。授業の合間の教室で机を囲んでいるグループ、トイレに行くために廊下を歩いている人たち、少しは入れ替わりもあるけど見慣れた組合せばかり。
 男子の場合は見かけるたびに別の顔ぶれで話していることがよくあるけど、女子ではあまりないことだ。ふらふらとしている子もたまにいるけど、そういうのは陰口の対象になることが多い。
 私はそうならないように、いつも決まった相手と話すことにしている。
「聞いてるかー?」
「ん?」
「あんたはまたボーっとしてたのか」
 やれやれと溜息をついたのはよみちゃん――本名はえっと、忘れた。
 よみちゃんは優等生なのに、お世辞にも優秀とは言えないともちゃんとなぜか仲がいい。少なくとも私が転校してきた時点から友達をやっている。
 で、私はともちゃんと友達になろうと思ったから、気がついたらよみちゃんとも自然と話すようになっていた。
 つまり私も含めた仲良しグループの一員だ。
「で、なんやて?」
「いや、またやってるなーって話だ」
 視線の先にいるのはともちゃんとちよちゃん。休憩時間になったからあの二人も来るかと思ってよみちゃんのところに来たけど、少し離れたところで話していた。
 まだ十歳だけど天才少女のちよちゃんと、その逆のともちゃんの組合せは見ていて滑稽だ。中身が入れ替わればちょうどいいのに。
「うう……」
 顔をしかめたちよちゃんの声がここまで届くようだ。
「またやなー」
 天才でもやっぱりまだ子供で、またともちゃんにからかわれているらしい。
 まあ、からかうと言ってもそれほど悪質な物じゃなくて、嘘を教えたり、苦手な怖い話をして驚かせたり……ちょっと大人気ないけど、あれはあれでコミュニケーションの一つ。本当に嫌なら、ちよちゃんだってともちゃんの話を聞こうとしないはずだ。
「あ、ともちゃん出てったで」
 ともちゃんはトイレにでも行ったんだろう。残されて一人になったちよちゃんがこっちに向かってくる。
「何の話だったん?」
「インターネット社会は怖いです……」
 相当、脅かされた様子。
「そうだな、ネットは怖いぞー」
 よみちゃんの口元がニンマリと歪む。光の加減で、眼鏡の奥でどんな目つきをしているのかわからない。
「よ、よみさん?」
「ちよちゃんは闇サイトって聞いたことある?」
「やみ!?」
「そうだ、闇サイトだ。闇サイトは怖いぞ、殺人依頼とかあるんだぞ」
「さつじん……」
 体を震わせて怯えるちよちゃんを見ていると、ちょっとだけともちゃんの気持ちもわかってしまう。
「そうだ、ちよちゃんも誰かに恨まれたら注意しないといけないぞ。夜中に見知らぬ人が拳銃を――」
「そ、そんな!」
「日本じゃ拳銃手に入らんけどな」
「それだけならいいけどな、他にも……いや、これはちよちゃんにはまだ早いな」
 わざとじらして驚かす手口……とはちょっと違うかな。
「な、何があるんですか!?」
 すっかり怯えた様子ですがりつくちよちゃん。よみちゃんは「あー」と困った顔で目をそらしている。
「なんや? そこでやめられたら私も気になるで」
 続きを促したのは、ちよちゃんがどうとかより、私自身も話をそこでやめられると気になってしまうから。
「あれだよ、ほら……出会い系の事件とか」
「あー、そういうことなー」
「であいけい?」
 十歳と言えば、本当は四年生くらいだから……性教育とかまだ受けてないかも知れない。高校ではもうそんなことはやらないし、性教育を受ける機会はなさそうだ。
「あんなー、出会い系ってのはなー、男の人とデートの約束をしたりするんや」
「デート?」
 それがどうして怖いことになるのか、よくわからないみたい。
「大人には色々あるんや」
「ううー、私だって高校生ですよ」
「高校生でもまだ十歳やんかー、ちよちゃんももう少し年を取ったらわかるでー」
「むむ……」
 ちよちゃんにはまだ早いというのもあるけど、私自身、あまり進んで話したい話題ではない。
「お、何の話ー?」
 戻ってきたともちゃんが輪の中に入ってくる。
「二人とも酷いんですよー、であいけいってのが何か教えてくれなくて」
「なるほど、出会い系ね」
 ともちゃんはにやりと笑う。
「二人はお子さまだからねー。ここは一つ、この私がちよちゃんに教えてしんぜよう。ほらこっちにおいで」
「はい!」