今日の長門有希SS
ショッピングセンターには様々な物が売られている。食料品や文房具などの日常的な物もあるが、服や家具などたまにしか買わないような物もある。ショッピングセンターが経営して売っている物もあるが、テナントに入っている店が売っている場合もある。
そんなわけで、ショッピングセンターに行けば大抵の用事はそこで事足りる。もちろんこだわって服を買う場合は繁華街に行って色々な店を見て回った方がいいだろうし、家電だって専門店に比べると遥かに品揃えが悪い。
中には時間つぶしで訪れている者も多い。来るたびに中高生くらいの年代の奴らが店内をうろついているのを見かける。
まあ、俺たちだってその例外ではないんだけどな。
とまあ、そのように便利な場所なので、知り合いに会うこともそれほど珍しくはない。
「あ」
長門が小さく声を上げ、その目線の先を追うと見慣れた顔があった。
「あ、二人も来てたんだ」
出会ったのは朝倉だ。長門と同様に朝倉も一人で暮らしており、何かと買い物をする機会は多いだろう。
「ちょっと本屋と飯屋にな」
図書館に行けば無料で借りることはできるのだが、新しい物を読みたい場合は順番待ちとか色々とあるらしい。今回の場合、長門が新しく出たのをすぐに読みたかったというのもあるし、ついでに食事でもと思ってショッピングセンターを訪れたわけだ。
「もう食べたの?」
「いや、まだだ」
「一緒に食べない?」
まだ少し時間が早いかも知れないが、別にそれでかまわないだろう。なあ、長門。
「先に本を買いたい。予約をしていないので早く行かないと買える保証はない」
そうか。
「それじゃ、わたしも買い物をしてくるから本屋さんの前に行くね」
苦笑してから、朝倉はすたすたと人混みに姿を消した。
「ま、さっさと本を買うか」
「……」
うなずく長門を連れて本屋に向かう。目的の本はSFコーナーにひっそりと一冊だけ陳列されており、早く買いたいという長門の判断は間違いではなかったのだろう。まあ、本屋に来た長門が一冊だけで収まるはずもなく、じっくりと背表紙を凝視しながら本棚の間をうろつき回っている。
こうなってしまえば俺の存在も頭から消えているだろう。いったん別行動をして暇つぶしをしようと思い、面白そうな本を探す。
「もう来てたのか」
タウン誌を読んでいる朝倉の姿を見つけた。
「すぐ買うのかと思ったから来たんだけど……まだ見つからないの?」
「いや、目的の本はすぐ見つかったんだが」
遠くの本棚の隙間をゆらゆらとした足取りで長門が横切った。
「ああいうことだ」
「それじゃあ、わたしももう少し見てくればよかったかな」
そういう朝倉の手には何もない。
「まだ買ってないのか?」
「小物入れを探しに来たんだけど迷っちゃって。途中にある店をざっと眺めてきたくらいかな」
ただ単に小物入れが欲しいってだけなら百均にでも行って適当なものを買えばいいのだろうが、朝倉はいかにも女の部屋といった具合に色々な家具や小物がある。それらと調和するように探すなら時間がかかる。小物入れなどは色々なテナントに売られており、選択肢が多すぎるからだ。
「長門もあの調子だし、また探してきたらどうだ?」
「うーん、どうしようかな」
朝倉は腕を組んで口元に手をそえてから、何かを思いついたようににこりと笑った。
「そうだ、キョンくんに選んでもらおうかな」
「ちょっと待て、お前の部屋に置くんだから俺のセンスで選んだら微妙じゃないか」
朝倉の部屋には何度か入っているが、長門の部屋に比べるとその頻度は格段に低い。まあ長門の部屋に置くものなら選ぶことができるかも知れないが、さすがに不安が残る。
「いいよ、キョンくんのセンスで」
朝倉はにこりと笑ってすっと距離を詰める。
「どうせ、他の男の人を入れるつもりはないし」
ちょっと待て。それは一体――
「どういうこと?」
まだ会計を終えていないのだろう、本を両手に抱えた長門が俺たちの間に割って入った。
本屋を出て飯屋に入ってから、なぜか俺が長門に説教されることになった。