今日の長門有希SS

 前回の続きです。


「遅い!」
 駅前に到着したところでハルヒの罵声を浴びる。今日はいつものパトロールではなく図書館に向かうのだが、なぜか集合はいつもの駅前だった。別に現地集合でもいいと思うんだけどな。
「ごちゃごちゃうるさいわよ。遅れたからお昼はあんたのおごりね」
 今回は集合時間前に到着したのだが、その他のメンバーが早すぎるため最後に到着しただけだ。しかしながらその理不尽さを訴えても無駄なことは既に理解しているので、俺は諦めてその条件を呑むしかない。
「それじゃ、食べてから図書館に向かうわよ」
 集合したのが昼食にはまだ早い時間だったので、金額的負担はそれほど大きくはなさそうだった。食事をしたのはハルヒ長門で、朝を食べてきてそれほど食欲がないと言う朝比奈さんや古泉、そして朝食を食う時間はなかったがなるべく出費を増やしたくない俺は飲み物だけ。
「みくるちゃん、食べないと大きくなれないわよ」
 などと言ってハルヒは食事を勧めていたのだが、朝比奈さんは既に十分豊満でいらっしゃるのだし、このギャップがマニア心をくすぐるのだとわからな――痛っ。
キョン、どうかした?」
「なんでもない」
 体をかがめ弁慶の泣き所をさすりながら正面を見ると、
「……」
 じっとりとした目で睨んでいる長門と目があった。


 いつもならここでクジで組み合わせを決めて解散するのだが、今回はこのまま全員で図書館に向かうことになった。
「どっちだったかしら」
 あまり行く機会が少ないのだろう、場所をはっきり覚えていないらしいハルヒではなく長門が先頭になった。SOS団での移動で長門が先導することは珍しい。貴重な光景を目に焼き付け、感慨にふける。
キョン、あんた面白い本とか知らない?」
 そういうのは長門に聞いてくれ。俺がそれほど読書をしてないのはお前も知ってるだろう?
「有希の読んでるのは難しい本ばかりじゃない。あんたが理解できる本ならすぐ読めるかと思ったのよ」
 確かに長門がいつも読んでるのは辞書みたいに分厚い本ばかりだが、だからと言って他人にまでそれを強要しないと思うぜ。試しに聞くだけでも聞いてみればいいだろ。
「ふうん」
 しばらく考えるようにしてから、ハルヒは俺から離れて先頭を歩く長門に話しかけている。少し離れているため会話の内容ははっきりと聞こえないが、ハルヒがそれなりに熱心に聞いているように見えるので、長門も適切なアドバイスをしているのだろう。
 図書館に到着すると、ハルヒは「二時間後に集合よ」と宣言していち早く本の海に姿を消した。解散してしばらくしてから、どこに集合するのか決まっていなかったことに気がついたが、なんとかなるだろう。
 SFの棚に向かう長門の背中を確認し、俺も図書館の中をぶらつくことにする。二時間ってのは何もせずに潰すには長い時間であるが、文庫本でも一冊読むにはちょうどいいくらいだろう。
 しかし、読む本を見つけるのが問題だ。俺も長門にアドバイスしてもらうべきだったかと思いつつ本棚の間を徘徊していると、同じく読むものが決まってないらしい古泉に出くわした。
「おや、あなたもまだ決まっていないのですか」
 ちなみにここは科学だとか物理だとかの専門書が並ぶ一角だ。理屈をこね回すのが特技なだけあって、読む本も小難しそうなものなのか。
「いえ、普段から読んでいるわけではありませんよ。せっかくの機会ですから、改めて調べたいことがありまして」
 古泉は一冊の本を取りだして俺にその表紙を見せつける。タイムマシンと物理学がどうとかいう本らしい。
 タイムマシンなんて、と笑い飛ばすことは今の俺にはできない。未来人である朝比奈さんを知る俺たちにとって、タイムマシンとは空想の産物ではなく、いつか実現してしまう技術なのだから。
「朝比奈さんに聞けばいいだろ」
「確かに、タイムマシンのことならば彼女に伺うのが一番かも知れませんが、話せないことを聞くのは少々酷というものでしょう。もっとも、彼女が話すことができるのは本当にごくわずかだとしても、その情報はここの全ての本を読むよりも有意義だと思われます」
 となると、古泉は自分のやっていることにあまり意味がないとわかっていながら、それでもなおかつ調べようとしているってわけか。
「お前はそんなもん調べてどうするんだ?」
「そうですね」
 古泉はニヤケた口元の前に人差し指を立てる。
禁則事項です」
 気持ち悪いからやめろ。