今日の長門有希SS

 前回の続きです。


 言うまでもないことだが、ショッピングセンターの中には色々な店がある。フードコートはもちろんのこと、ケーキやアイスを売ってる店が密集した区画もあるし、和菓子のテナントも入っている。
「色々あるね」
 入り口にあった案内板を見る朝倉の目は輝いていた。喜緑さんの指摘によってここに来るまで落ち込んでいたのだが、このラインナップを見てそれも忘れてしまったかのようだ。
「迷う」
 とは長門の談。何件か入っているのは知っていたが、改めて見ると本当に色々な店があるものだ。
「せっかくですし、二手に分かれて回ってみましょうか」
 なぜ、と疑問を口にする前に喜緑さんは朝倉の手を引いて店内に消えていく。何事か朝倉は言っていたようだが、あっという間に人の波に隠れて見えなくなってしまった。
 ひょっとして、気を使ってくれているのだろうか。喜緑さんはあんな人だが、一応は年上という名目になっており、お姉さん的存在であろうと思っているのかも知れない。
「それじゃ、適当にぶらついてみるか」
 ここで決めるより、実際に見て回ったほうがよさそうだ。
「……」
 異論を挟むことなく、長門はそっと俺の手を握ってきた。


 と、歩き始めてみたものの、ここまで店が多いと目移りしてしまうものだ。長門の様子をうかがってどこにするか決めようと思ったのだが、きょろきょろと動く視線を追うとあらゆるものに興味を引かれているらしい。
 食べたいものはなんでも食べればいいようなことを言っていたのだが、さすがに無理があるだろう。
「……」
 どうした?
「とりあえず」
 長門が指さすのはアイスの有名チェーン店だった。この店だけでも大量の種類がある。
「ちょっと待て、いくつ食う気だ?」
「一つ」
 それなら大丈夫だろう。
「とりあえず」
 そうか。
 長門は様々なアイスが入ったガラスケースをじっと眺めている。これだけ種類があれば迷ってしまうのも当然だ。
「期間限定のもあるんだな」
 ここの店は月ごとに入れ替わりがあるらしい。ただでさえ多いのに、大したものだ。
「……」
 と、そんなわけで長門は長考に入ってしまった。種類が多いためガラスケースはかなり横長であり、長門はそれを左右に歩き回りながら見ている。真剣に吟味しているようだ。
「こっちにメニューが貼ってあるぞ」
「そう」
 先ほどまで歩き回っていた長門だが、メニューの前に立ち止まって動きが止まった。どんなものを頼むのかと見ていたのだが、最終的には「選んで」と俺に丸投げしてきた。
「いくつか候補はないのか?」
「これと……これと……これ」
 長門が選んだのは期間限定の栗やらチョコレートやチーズケーキ風の三種類。
「そうだな……」
 なかなか選びにくいものだ。
「トリプルってのもあるんだな」
 三つなんだから、と冗談で言ってみると長門は驚いたように俺の顔を見上げる。
「それにする」
 いいのか。
「しかし、トリプルはちょっと多くないか?」
 注文と会計を済ませた長門に今さらながら言ってみる。
「大丈夫」
 まあ、長門の食欲なら問題ないか。
 とは思ったのだが、実際に商品を受け取った長門の持つアイスを見るとさすがに多かったかと後悔する。長門は少々小柄であり、塔のようになったアイスの巨大さが余計に際だっている。
「はい」
 しばらく食べてから、俺のほうにスプーンを差し出す。
「食ってもいいのか?」
「元から二人分のつもり」
 なるほど。
「じゃあ、ちょっともらうぞ」
 長門の持つスプーンには既にアイスがすくってあったので、それをそのまま口の中へ。一番上のマロンの味が口に広がる。
 と、そんなことをしていると。
「うわあ……」
 と聞き慣れた声が聞こえる。いつの間にか近くに来ていたのか、口を押さえている朝倉と、にこにこと笑う喜緑さんの姿があった。
「甘いものを堪能させて頂きました」
 何をしているんですか、喜緑さん。


 それからまた二人と合流し、適当に色々食ってから帰ることになった。