今日の長門有希SS

 長門とショッピングセンターにやって来た。さすがに週末となると人が多く、はぐれるほどではないが俺はその手を引いて歩いていた。
 特に理由はない。ただなんとなく、最近来ていないなと話していて来ることになっただけだ。
 目的は食事の買い物だが、急ぐ必要も無いのでブラブラと歩き回る。本屋が見えてきたところで長門の様子を確認すると、予想通りそちらに視線を向けていたので、俺達はそこに寄っていく事にした。
 いつものように小説のコーナーで立ち止まる長門を残して奥へ進み、漫画週刊誌などを立ち読みする。中学生のはずなのに超人的な技術と身体能力を持つ登場人物だらけのテニス漫画を見ていたところで服を引っ張られるのを感じ、そちらを見ると紙袋を抱えた長門が立っていた。
 店を出て再び歩き出す。しばらく進んだところで、駄菓子を売っている小さな店を見付けた。
 現在、駄菓子屋と言えば単独の店ではなくこのようにショッピングセンターなどのテナントで入っている事が多い。少額のものをバリエーション豊富に買えるため、今でも小中学生の遠足のお菓子などでは人気があるのだろうか。
「寄っていく?」
 長門にそう訊ねられ、今度は俺がそこに目を奪われていたらしい事に気付いた。
「そうだな」
 たまにはこんなのもいいだろう。長門もあまりこういうのは経験がないだろうしな。
 店内で最も面積を占めていると思われるのは、一本十円の棒状のスナック菓子だ。値段も安く種類が多いため、今も昔も根強い人気があるのだろう。
 しかし、本当に種類が多いな。どうやら十種類以上あるようだ。子供の頃に食べた味が無くなっているような気がするが、まあ、きっと色々あるのだろう。
「……」
 長門が小さな台形状のものをじっと見つめていた。
「ヨーグルト?」
 長門が持っているのはヨーグルトとは似て非なる駄菓子だ。名前も微妙に違うし、味も全然違うはずだ。
「買ってみるか?」
「……」
 ほんの少しだけアゴを引く。入口にあった小さな買い物カゴを持ってくると、俺はヨーグルト風のそれを長門の手からそこに入れさせる。
「他にもなんか気になったのがあったら入れて良いぞ」
「そう」
 長門はスタスタと歩き、並べて陳列された薄っぺらい駄菓子を一枚ずつ抜き取って束にしてかごの中へ放り込む。それは焼肉やら鰻の蒲焼き等の写真がプリントされた駄菓子で、確か魚系のものにそれらの味が付けられたお菓子だ。子供の頃にそれが実は肉や鰻ではないという事実を知って、色々と大人の世界について考えた記憶がある。
 長門はキョロキョロと店内を見回し、長門基準で気になった駄菓子をぽんぽんとカゴに入れていく。一個目が満杯になって二個目のカゴを持ってきた時はさすがに止めようかと思ったが、表情は変わらないがいつもより何となく楽しそうな様子の長門を見て好きにさせる事にした。


 長門の気が済むまで買ってから会計をすると、五百円玉でお釣りが来た。かなり買ったはずだがさすがに駄菓子は安い。いや、駄菓子屋基準ではこれでも高額な買い物だと思うが。
「ちょっと買いすぎたか」
 冷静になって思い返すと、やはりちょっと多かったんじゃないかと感じた。
 長門はしばらく俺の顔と袋に入った駄菓子を見比べてから「そうかも知れない」と呟く。きっとテンションが上がっていたのだろう。長門にだってそんな時はあるさ。
「二人では多いから、あなたの家に行きたいと思う」
 そう言えば最近、長門を家に連れて行ってなかった気がするな。お菓子もあるし、妹も喜ぶに違いない。
「そうだな」
 そうなると食材を買って帰るのもアレだ。どこかで外食をしてから家に行くのもいい。
 もしかすると、妹の土産のためにここまで多く買ったのではないだろうか。長門の横顔を見て、なんとなくそうそう思った。