今日の長門有希SS
昨日の続きです。
午後の授業はいつも以上に気が乗らなかった。
窓の外で降り続ける雪と、背中から感じる妙に上機嫌な気配。チラリと見るとハルヒは始終ニコニコと窓の外を見ている。
放課後になったところでハルヒにむんずと掴まれる。
「キョン」
言いたいことはわかっている。今日のSOS団の活動は雪合戦だってんだろう。
「雪合戦をやるから暇そうな奴をかき集めなさい。今すぐ」
どうやらそれではすまなかったらしい。俺にそう言ったハルヒは早々と朝倉のところに小走りで向かって、何やら話しかけている。
仕方ない。ここで誰も連れて行かなければ不機嫌になるのは目に見えている。それに、暇そうな奴らなら目に入っている。
「ようキョン、今日は部室に行かないのか?」
しかも都合がいい事に自分からやって来た。
部室に向かう角を曲がり、ハルヒが思っていた以上に乗り気だった事を知る。
「なあキョン、あいつらもか?」
「だろうな」
文芸部部室の前にたまに見かける人々が立っていた。普段は隣の部室に引きこもって何やら作業しているはずのパソコン部員達が何やら嫌そうな顔で廊下に突っ立っていた。四……いや、五人はいるな。
恐らくは昼休みあたりに部長か誰かをとっつかまえて無理矢理参加するように言ったのだろう。
「人数が多くてなかなか楽しそうだね」
と言うのは国木田。谷口と違ってこいつは案外と乗り気らしい。将来大物になりそうだな。
しかし、中に入って待っていればいいと思うのだが……
こちらをチラリと見る部長氏に会釈をして、ドアノブを掴む。
「ん」
ノブが回らない。ガチャガチャと回していると、中から「ちょろっと待っててっ」と鶴屋さんの声が聞こえた。
「着替えを待っているんだ」
パソコン部員の言葉に納得した。
しばらくして「いいよっ」と聞こえてガチャリとドアが開く。今回はどんなコスプレをしているのかと疑問に思っていたのだが、
「ん、キョンくんどうかしたかいっ?」
ジャージ姿の鶴屋さんが不思議そうに俺の顔を見上げてくる。部室の中を見ると、朝比奈さんや長門もジャージを身につけている。
「制服じゃ動きづらいからね」
冷静に考えたら当然だよな。さすがにスカートで雪合戦をするわけにもいかないだろう。
「おっ、なんだい期待してたのかいっ?」
鶴屋さんはケラケラと笑いながら俺の背中をバンバンと叩いてくる。いや、否定はしませんけど。
「……」
長門の視線が痛い。
「ちゃんと集まってるわね!」
と言う声が聞こえる。そちらを見ると、ハルヒが仁王立ちで満足そうな顔をしていた。
その横には予想通りというか何というかジャージの入った袋を小脇に抱えた朝倉がいる。こいつも付き合いがいい。
「さ、着替えるからどいたどいた」
俺の体を押しのけてハルヒと朝倉が中へ。再び待たされる事に。
「おや、もうお揃いですか」
既にジャージ姿の古泉が登場した。気合いが入っているな、お前は。
「制服で参加するよりはましかと思いまして」
ハルヒの事だから、女性陣はそれなりに着替えたりとか考えているだろうが、男なら勝手にやれと言いそうだし、準備が終わったら速攻で始めそうだから……
「僕達も着替えた方がいいんじゃない?」
「そうだな」
状況を把握できていない谷口を残し、俺と国木田は急いで教室に戻る事にした。